50.アイミテノ
「悠希ぃー!」
 よし!語尾にハート、付いてたよな?
「城くん!」
 …昨日も会ったんだけど、意外にも悠希は寂しがり屋さん。
 ほらむかーしのアイドル歌手が歌ってたじゃない、会えない時間が愛育てるって。誰だっけ?
 あれ?ちょっといない間に、リビングの雰囲気が変わっている。
 ボクたちの荷物がないからかな?
 なんてキョロキョロしていたら、悠希の腕の中に閉じ込められた。
 コツンと額に額を合わせて、ジッと顔を覗き込まれる。
「悠希…近い…」
 恥ずかしいんですけど。
「可愛い」
「ありがと」
 言い終わる前に悠希の唇がボクの唇に重なった。
 最初はソフトに、段々深くなる。
「ん」
 頭の中が痺れる。
 何も、考えられない。
 気付いたら悠希の腕をギューギュー握り締めていた。
 ゆっくりとキスが解ける。
 再び額を合わせて、
「城くん、痛い」
という囁きを遠くで聞いた。
 そのときのボクの思考回路は完全に停止していて、耳鳴りのようなザワザワした音が鳴っていた。


 増上さんと寛永さんが来てミーティングが始まった。
 ボクたちが短い逢瀬を堪能していたとき、神宮寺くんと心くんも二人きり。ほんの五分くらいだったので
まさかだけどね。うん。
「いよいよコンサートだけど、曲数が足りないんだ。」
 ん?
 …は!そうだよ、ボクたちdaysはシングル曲二曲、カップリング四曲の六曲しか持ち歌がない。
「セカンドシングルを作ってくれたACTIVEが他に候補として二曲提供してくれているんだ。これを入れて
あとは…」
 増上さんの口から次々と有名なアーティストの名前が出てくる。
「それと…野原さんがACTIVEの曲で好きなのがあったら歌ってもいいって許可くれたので二十曲なら
いけそうだよ。で、会場は、」
「ちょっと待ってください」
 突然、神宮寺君が手を上げた。
「俺たち、いくつか書いたものがあるんですけどダメですか?」
 神宮寺君は自室から五線譜のノートとギターを持ち出してきた。
 悠希が神宮寺君を見上げる。
 神宮寺君が黙ってうなずく。
 二人が見事なハーモニーを聴かせてくれた。
「…いいんじゃないかな…きっと」
 寛永さんが小さくうなずいた。
「そうだな…」


 コンサートは11月に決まった。
 それが終わったらボクらは受験勉強に入るというなんたかどういう仕事何だか全然わからない状態になって
来たのだった。