51.盗撮
 水曜日の3時限目。
 この日は城君のクラスは体育の授業。
 何時ぞや桧川君に城君がサッカーをしている姿をこっそり撮影してあげたことがある時間。
 僕はこの時間、選択科目の書道なんだけど、今日は先生が展覧会に出品する関係でお休みしているから
自習となった。
 課題を提出すれば他にやることがない。
 僕はずっと窓から城君の姿を探していた。
 今日はマラソンだったようだ。
 トラックを一時間延々と走らされる、結構過酷な授業だ。
 クラスメートからは「野郎の走る姿なんか見てて楽しいのか?」と聞かれたが、城君がいることを伝えると、
なぜか顔を赤らめて一緒に探してくれた。
「赤坂さんって…やっぱりアイドルだよなぁ」
「僕もそうなんだけど」
「川崎はなんか違うんだよ、芸能人っていうよりクラスメートなんだよな。」
 そう言っているクラスメートも俳優志望で目下勉強中…というところだ。
「でも僕もそう思う。城君は自分で自覚が全然ないんだけど、すっごく可愛いんだ。言動一つとっても可愛い、
仕草も可愛い。男にしておくのがもったいない位可愛い。」
 だから早く桧川君と結ばれたらいいのに…と切に思っている。
 そうしたらもっともっと、可愛くなると思う。
 僕は鞄から小さいデジカメを取り出した。
「おいおい、校内での撮影は禁止だぞ。」
 芸能人が多く通学するこの学校では、トラブル回避のために朝学校に着いたら携帯をロッカーにしまう。だから
こっそり隠し持っていたのだ。
「大丈夫、城君だけ撮るから。僕さ、彼の普段の顔がすっごく好きなんだよね。だから家に帰ってでっかく引き伸
ばしてポスターにするんだ。」
 すごいな、身内がファンなんだ…と、彼はしきりに感心していた。
 僕はずっと城君を見つめる。
 粘り強く、歯を食いしばって走り続ける姿は、とっても色っぽい。
 桧川君に見せてあげなきゃもったいない。
 左腕で、顔の汗を拭う仕草まで可愛い。
 その時、急に城君がこっちを見てあかんべーをした。


「どんだけボクのこと好きなんだよ、心は。」
「うん」
 6時限目の終了と共に、寛永さんが迎えに来てくれる。
 その車内でデジカメの写真を城君に見せた。
「これ、この顔が凄く可愛い」
「えー、全然可愛くないよ。っていうか可愛いよりカッコいい写真撮ってくんない?」
「無理無理、城君カッコいいところなんか一ミリもないもん。可愛い可愛い城君だもんね。」
「えー、納得いかないし。なんか腹立つし。」
と、悪態をついているけど、満更ではないのだ、この天邪鬼は。
 今日は、コンサートへ向けて振付のレッスンだ。
 新しい曲、テレビで披露したことのない曲は振りがない場合もある。
 それを覚えなくてはならない。
「ボクはさ、早くアルバムが出したいな。」
「そうだね」
 そして、一日も早く自分たちのオリジナルだけで、コンサートが開けたらいいね。


 レッスン室で、神宮寺君の写真をこっそり撮ったのは誰にも秘密です。