54.イベントへ行こう
 ボクらにとって大事なお仕事。
 それはイベント。
 不特定多数の人にボクらの存在を知ってもらうのが目的。
 今回はテレビ局が開催しているイベント会場に特設ブースが設置されていて、ここのステージで歌わせて
もらえる。
 ACTIVEに書いてもらった新曲とデビュー曲の二曲。
 今回のイベント会場には司会の人が居るけど、コンサートにはいない…って、当たり前か。
 その時、一体何を話すのかを心君と話していた。
「神宮寺君は何かネタを持っているかな?」
「ムリムリ、蘊蓄も持ってないし。桧川君は?」
 悠希?悠希は…
「…ない、かな?」
 悠希の口からあふれる言葉はいつでも城君可愛いとか大好きとか瞳に映っているのがオレで良かったとか…
そんなこと心君に教えられません…。
「城くんのえっち」
「え?なんで?」
「顔が赤い」
「えっ?ええ?」
 咄嗟に顔を手で覆っていた。
 心君は耳元で囁く。
「キス以上のこと、してもらった?」
 フルフルと首を左右に振るのがやっとだった。
「城君、心君出番だよ」
「はーい」
「はいっ」
 ボクらは慌ててステージへ向かった。


「赤坂君と川崎君はまだ高校生ってことだけど、得意な科目は何ですか?」
 ありきたりの質問が司会者から振られた。
「僕は英語です。」
 そうなんだよ、心君は全般的に成績は良いんだけど特に英語は常にトップクラスなんだよ。
「ボクは得意ではないけど古典が好きです。日本の文化に触れるのが好きなんです。」
「二人対照的ですね。英語と古典ですか。それでは神宮寺君と桧川君は既に高校を卒業されててお仕事に専念
されていると思うのですが、」
 『思うのですが』ってことはこの司会者二人のことに関して全然調べていないってことじゃないか。ちょっとムカつく。
「仕事場でですか?そうですね、どの子が可愛いとか、タイプの子の話とか。」
「そうそう、お尻の小さい子がいいとか、足首が細い子とかよく話しています。」
 え?なに?二人だとそんな話をしているの?なになに?
 ―城君、スマイル―
 心君が耳打ちしてくる。
 わかってる、そんなことわかってる。そして二人が言っていることも営業用だって分かっている…でも、はっきり悠希
が否定してくれないと心に小さな棘が刺さったみたいに痛いんだ…。


「ごめんなさい」
 神宮寺君と悠希の部屋の玄関で、束の間の逢瀬。
 キスの合間にイベント会場での動揺について叱られた。
「頭では分かっているんだけど、気持ちが…」
「わかる。わかるけどそれじゃダメなんだよ、ね?」
 そう言いながら唇にキスを落とす。
「好きなのは城君だけ…ね?」
 うん、うん。ボクも悠希だけ…。
 もっといっぱいイベントに出させてください。修行したいです。
 果たしてコンサートまでに気持ちを顔に出さないことが出来るようになるんだろうか…。