60.幕は上がった
 どうしよう、ドキドキする。
 ステージの袖でボクは観客席を見詰めながら衣装の裾を握り締めた。
 すると、悠希がボクの肩に両手を置いて
「大丈夫、オレもそばにいるから。」
 言われて気付いた。
 ボクはdaysのたった四人の中の一人に選ばれた人間だから、もっと胸を張って良いのだと。
 顔を上げ前を見る。
「悠希、大丈夫だよ。」
 精一杯の笑顔を作った。
「うん。楽しもう、生まれて初めてのコンサート。」
 そう、コンサートは悠希の夢だった。
 だからボクはどうしても成功させたい。
 大きく深呼吸すると絶妙のタイミングで音楽が流れる。
 ここから、ステージの始まりだ。
 ボクは一歩、足を踏み出した。



 終わった…。
 ボクのアイドル人生は終わった…。
 がっかりとうなだれる僕を見て心君も神宮寺くんも声をかけてこない。
 今夜、最大の見せ場でボクは振りを間違えてしまった。それに慌てて歌詞も間違えてしまった…。
「心君、今夜城を借りても平気?」
 突然、悠希が心くんに問いかけた。
「え?あ、大丈夫。慧くんこっち来る?」
 簡単にトレードが成立したようだ。
 ボクはされるがままに神宮寺くんと悠希の部屋に、神宮寺くんは心くんとボクの部屋に帰った。
「城くん、良いもの見せてあげるよ。」
 差し出されたのは悠希のスマホ。Twitter画面が表示されている。
「あ」
 画面には今夜のdaysのコンサートに関して書かれている。


 daysのコンサート、超楽しかった

 友達の付き添いで行ったけどファンになったよ

 城くん可愛い

 ファーストコンサートの次はセカンドコンサート目指して頑張ってください

 城君途中で泣きそうな顔してたけど何かあったのかな?



「分かった?」
「わかった!」
 悠希、ありがとう。
 ボクは思いっきり悠希に抱き付いた。
「ところで…」



 !!!!!!!!!!


「城?」
「ん?」
「大切にするからね。」
 ん?
「違うよ、悠希。」
 ボクはベッドから起き上がった。
 「ボクは悠希に依存なんかしない。daysとして四人で幸せをつかみに行くんでしょ?まだまだ
色々教えてもらうこともあるし…って!!!」
「どうした?」
「悠希、受験は?」
「あぁ、あれね。終わった。無事に合格したよ。」
 うう〜、やっぱり勉強しなきゃいけないのはボクだけか…。