69.ふりがなをふってもいいですか
「うーん…うーん…」
 ボクはさっきからずっとこうして唸っている。
「どうした?お腹でも痛いのか?」
 心配して神宮寺くんが声を掛けてくれたけど、ボクはどこも痛くない。
「強いて言えば…頭かな?」
 ボケたつもりで答えた。
「それは、風邪じゃないか?」
「慧くん…」
 心くんが神宮寺くんの袖を引く。
「違うし。台本。」
 心くんが指さした先には、ボクが握りしめている映画の台本があった。
 この台本、分厚い…。
「重い」
 それだけじゃない。
「漢字が多くて読めない…」
 そうなんだ、漢字が多いんだ。
「…本当だ。しかもなんだか読めない漢字ばっかり。意味解らないな。」
 え?
「神宮寺くんにも解らないの?」
「うん。これなんて全然。」
「これ?」
 屡々、と書いてある。
「普通はね、小説でもひらがなで書くよ。しばしばって読むんだ。」
 鴉
 更格廬
 蕃茄
「からす、カンガルー、トマト。普通に書けばいいと思わない?」
 ふぅーっと、ため息をついた。
「凄い、城くん読めるんだ。」
「もう覚えたよ。解らなかったら聞いて振り仮名ふってる。」
 読めるけど、書けないしなぁ。
 でもふと思ったんだ。
「漢字って、面白いなぁって。カラスだって、」
 ボクはメモ帳に二つの漢字を書いた。
「鴉と烏があるんだよね。」
 
「これもある。それから…」
 雅
「これもそう。」
 悠希がいつの間にかやってきていて、メモ帳に漢字を二つ追加した。
「へぇー、知らなかった。」
 テーブルの上にそっと、手帳サイズの機械を置いた。
「うちの高校、電子辞書は禁止だよね。でも便利だから使ったらいい。」
「これ、悠希の?」
「使ってみて良かったら、新しいのを、」
「これがいい。これちょうだい?」
「いいけど…」
 すっごく嬉しい。
 これで、いっぱい頑張れる。
「ありがとう」
 早速ボクは分からない漢字を調べ始めた。


 台本にはいっぱい、振り仮名がふられた。