70.それぞれの想い
 えーっと、確か事務所の意向ではない…と言っていたよね?
 なのに社長からダメ出しって?
「心?どうした?」
 慧くんは心配そうに僕の顔をのぞき込んだ。
「部屋割り。どうしてまた同じ?いや、別に城くんが嫌いな訳じゃないけどさ、何て言うか折角慧くんと
また一緒に暮らせるんだから文句はないよ、ないけどさ、」
 歯切れの悪い言い方になってしまった。
「単純に仕事の都合。それと俺の自主規制。せめて心が高校を卒業するまでは今まで通り自制していく
所存であります。」
 少し首を傾げて、可愛らしく言う…けど、慧くんに可愛いは似合わない。
「…って言うかさ、城ってすっごい子供らしいんだ。未だに一回しかやってないんだってよ。」
 …知ってる。
「城くんは子供なんじゃなくて今いっぱいいっぱいなんだよね。だから桧川くんに愛されるんじゃなくて
保護される方が大きくなっちゃってるんだ。」
 学校行ってdaysの仕事して映画の主演もあって…。
「それに、あの二人は一緒に居られることだけでうれしいんだって。お互いの存在が常に身近にあって
欲しいって言ってた。」
「ま、人それぞれだし。」
 そう言うと慧くんは僕の身体を抱き寄せる。
「俺たちの愛の形はこっち」
「うん」
 深く、唇を重ねる。
 そして、いつも通り。


「悠希悠希、これはどうしてこうなるの?」
 相変わらず数学が解らない。
「ん、これはね、」
 悠希の説明は解りやすいからついつい頼ってしまう。
 また一緒に暮らし始めてから益々頼ってしまう。
「…だよな…」
「え?何?」
「あっ、いや、なんでもない」
 悠希が顔を真っ赤にして口籠る。それでピンと来た。
「…したいの?」
 悠希の膝に手を置く。
「いや、そうじゃないけど…あっちはシテるかなって。」
「多分…悠希。」
 ん?と顔を上げたところに、軽く唇を重ねる。
「映画が終わったら…」
「…うん…」
 それぞれの想いが交錯する、夜。