72.期待させないで
 城くんが映画のロケで2泊3日、留守にしています。
 夕べ、慧くんは僕のベッドで一緒に寝ました。
「今夜も、一緒に寝てくれる?」
 僕は、確かにそう言いました。


「悠希」
 俺は、同部屋の悠希に思い切って尋ねた。
「これって、心はシタいってことかな?」
「神宮寺くん、オレはその手の話は疎いんだけど…」
 …そうだった、このカップルは初心だった。
 仕方がないので直接聞いた。
 すると意外な答え。
―僕、明日は早くから仕事なんで起こしてもらおうと思って―
 時々、俺は不安になる。
 本当に心は俺を好きなのか?
「神宮寺くん」
「ん?」
「恋する乙女モードに入ってる」
 え?
「オレがこんなこと言うのもなんだけどさ、神宮寺くんは心くんに愛されているって自信がないんじゃない?」
「そう言う悠希はどうなんだよ?」
「オレ?自信あるよ。だって今だってロケに行ってるけどさ…ほら」
 話をしている間に悠希の携帯にはメールの着信を告げるアラームが鳴った。
「ロケ先の風景写真が届く。」
 クルリとスマホの画面をひっくり返すと、綺麗な花畑の写真だ。
「楽しいこと、嬉しいこと、感動したこと…もちろん気持ちいいことも共有したいのが恋人じゃないのかな?」
 そうかもしれない。
「心当たりがありそうだね?だったら簡単だよ。神宮寺くんが心くんに一杯愛してるって言ってあげればいいん
だよ。それだけ。」
「うん。そうする。」
 そうだ、俺は心に甘えてた。ずっと言葉をかけてやってなかった。


 夜。
 今夜も心のベッドに潜り込む。
 身体をギュッと抱きしめ、
「愛してるよ」
と、耳元で何度も囁く。
「どうしたの?」
って言う声が嬉しそうだ。
「心がさ、可愛くて、どうしようもなくなったから、言葉にしてみようって思った。」
「僕も、大好き。」
 その瞬間…心はすーすーと寝息を立てていた。
 悠希の言うとおり、不安だったのかもしれない。
 けど。
 ちょっとだけ、いや、かなり期待していたんだけどな…。