ポケットの中に入れてあるスマホが、二回震えてメールの着信を教える。
でも、オレは見なくても分かっている。これは城からのただいまコール。
「相好が崩れるというのはこういう表情を指すんだよ」
神宮寺くんが心くんに何か言っているけど頭に入らない。
「桧川くんのスマホがさっきからずっと鳴ってるよ?」
レッスン室で珍しく心くんと二人っきりで新曲のカップリング曲の振り付けをやっているところだ。
「うん。多分、城くん。空港に着いたら連絡するように言ったから。」
でも、今の状態ではメールを確認することも迎えに行くことも出来ない。
「大丈夫、オレが迎えに行かなくてもスタッフさんが送ってくれるから。」
「うん…」
心くんは納得行かないようだ。
しかし、コンサートに向けて振り付けのない曲に振り付けするのは大事な仕事だ。
「僕さぁ、明日小テストがあるんだよねー。」
「え?」
わかってる。心くんは城とは違う。…けど、この場合乗ってあげた方が良いようにも思える。
「慧くんはさぁ、もう仕事終わり?」
「うん。」
神宮寺くんは別の仕事で既に終わっているはず。
「じゃあ今日はお仕舞いにして明日やろうよ。家まで送ってくれる?」
オレは心の中で心くんに感謝の言葉を沢山並べながら家路に着いた。
そして、急いで城を迎えに行く。
「その前に…」
独り言を言いながら、メールを打つ。
浜松町?品川?
直ぐに返事が来たけど、信号まで待つ。
浜松町!
了解、待ってて
ただこれだけのやりとりでも嬉しい。
会ったら、思い切り抱き締めてあげたい。お疲れさまって。
そして、寂しかったって、伝えたい。
それにしても、片思いしている間はなんて忍耐強かったんだろう。城が隣に居たってじっと手も触れず
に笑っていた。
いまなら絶対に抱き締めてる。
そのうち触れていない時間が不安でたまらなくなるのではないだろうか。
人間とはなんて贅沢で身勝手な生き物なんだろうと、実感する。
浜松町駅には竹芝ふ頭へ向かうちょっと人通りが少ない場所がある。そこでいつも待ち合わせをしている。
すでに城は待っていた。
歩道に車を寄せ、助手席側のドアのロックを外す。
城はすぐに乗り込んだ。
「悠希、早く早く、早く出して。」
言うが早いか、持っていたボストンバックを後部座席へ投げると、シートベルトを締めて座席に落ち着いた。
「おかえり」
「あ、ただいま。」
あ?
あって何だよ。
「悠希、はや…」
オレは饒舌な口を自らで塞いだ。
しかし、城は物凄い勢いで離れたのだ。
「なん…」
「馬鹿っそこにファンの女の子が居るのに」
マジで!? |