| バカバカバカバカっ、悠希のバカ。 だから早く出せって言ったのに。
 ボクだって三日振りに会った恋人に抱き締めて欲しいけどさ、後ろから城くん城くんって囁いている声が
 聞こえているんだもん。ここは一刻も早く立ち去りたいんだもん。
 なのに…こんな…こんな場所でキスするなんて。
 「ごめんね、悠希。馬鹿なんて言って。」
 「いや、オレこそごめん。後先考えずキスしたりして。そうだよな、もっと場所をわきまえなきゃいけないよな。」
 悠希の落胆ぶりがあからさまだから、あまり強く言えない。
 「悠希、」
 車がゆっくり発進した。
 「ただいま」
 「うん、おかえり。」
 「すっごく逢いたかった。ホントのホントに逢いたかった。」
 そっと、膝の上に手を置いた。
 「悠希…悠希だなぁ…」
 「城、そんな可愛いこと手が離せない状態でしないでくれる?オレは今、正確に言えば3日前からずっと抱き締めた
 くてうずうずしているんだから。…って声に出さなくたって笑ってるってわかってるんだからな。」
 さっきしょんぼりしていた悠希は、プンプン怒り出した。
 「悠希。ボクだって3日前から悠希に触れたくて仕方なかったんだから、少しくらいフライングしたっていいでしょ?
 悠希だってさっきフライングしたくせに。」
 「ごめん。夕べも一昨日の晩も神宮寺くんと心くんに当てられっ放しでさ、かなり羨ましかったんだよ。」
 そうだろうね。神宮寺くんはかなり強引らしいから。心くんもそんな所が好きみたいだし。
 「心くんと言えば、昨日のレッスンでどうしても覚えられない振付があるってメールが来たけど、ボクに覚えられる
 かな?心配になって来た。」
 撮影はあとセットで一週間くらいやれば終わるはず。それからコンサートの練習があって…秋には大学の推薦
 入学があって…できるかな?ボク。
 「心くんの振り付けはソロのところ。城くんは別の振りが付いてるよ。」
 そうか。心くんだけなんだ。
 なんだかホッとしてしまった自分が情けない。
 何を目標に頑張っているんだ、ボク。
 「ホッとしているところ申し訳ないけど、イントロ部分は城くんの今回最大の見せ場が待っている。」
 え?
 「ええっ」
 だって。
 だってだって!!
 「ボクだって心くんみたいに悠希とイチャイチャしたいしっ」
 はっ!
 今度は罠にかかった。
 「イチャイチャしたいって思ってくれてんだ。嬉しいな。」
 なんでだろ?二人っきりだったら何されても平気だし、なんでもしたいって思えるのに、人目を気にすると身動きが
 取れなくなってしまう。
 「オレさ、神宮寺くんにお願いしようと思っているんだけど、部屋割りを変えてって。理由はオレが城の勉強みてやる
 からってことで。どう思う?」
 えっ?
 そんなことしたら…心臓がもたないよ。
 「オレがね、嫌なの。城と心くんって仲いいからさ…どうしても疎外感があるんだよ。それといずれあそこを出ることにな
 るだろうから、その時に一緒に暮らすシミュレーションってことで。」
 い・い・い・一緒に暮らす!?
 ボクに死ねってことですか…?
 「嫌だ?」
 「嫌じゃない…けど…前向きに検討するってことで…よろしく」
 「了解」
 悠希は、なんだか楽し気に笑っていた。
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