76.罪悪感
 わかってくれるはず。
 そう、頭ではボクもわかっている。
 けど、心が着いて行かないんだよね。
 映画の撮影、最後はセットでと聞いていた。
 確かにセット撮影だ。
 設定は、ボクの部屋。
 窓からは夏の海が見える。
 白い雲。
 サーファーが波に漂っている。
 その窓枠にボクが腰かけていると、12歳年上…という設定の男性が寄ってくる。
 ふわっと抱きしめられて、軽く唇を触れ合わせる。
 互いに目を見てニッコリ笑う。
 今度は深く口づけを交わす。
 何度も、何度も。
 飽くことなく口づけを交わし、そのまま縺れ合うようにベッドへ。
…というのがざっとしたあらすじ。
 つまりボクは役の中ではゲイなんだ。
 抱き合う男性はこの映画の中で5人。
 内この年の離れた人とラブシーンがある。
「城くん、表情が硬いよ。」
 さっきから何度も飛んでくる指導の声。
 だって。
 最初はこのシーンなかったんだ。
 ロケで全部終わって良かったね、って。
 ロケ終わりの日に監督が台本にないシーンを入れたいって言いだして、セリフはないから兎に角
演技力でカバーして欲しいと言われた。
「…無理…です。」
「城くん初めて?」
 こくん、と首を縦に振り、嘘を言ってはいない、ついただけ。と自分に言い聞かせる。
「そっか…アイドルだし、高校生だもんな。じゃあ、更に台本書き換えよう。」
と、初めての設定に変わった。
 抱きしめられた後、ボクは驚きの表情で男性を見返し、首を左右に振るけど強引にキスされてしまう。
背中をトントン叩きながら、でもゆっくりと彼の背に腕を回して優しく抱き付く。
 男性の唇は徐々に身体を伝って下方へ。ボクの表情だけが映し出される。
 …難しいことに変わりはない。
 それに一番気になるのは悠希のこと。
 悠希以外の人とキス、したくないのに。
 なのに。
「城くん、色っぽいね。」
 なんて言われちゃって悠希の腕の中を思い出してしまったんだ。
 ボクの心の中は罪悪感しか残っていなかった。