| わかってくれるはず。 そう、頭ではボクもわかっている。
 けど、心が着いて行かないんだよね。
 映画の撮影、最後はセットでと聞いていた。
 確かにセット撮影だ。
 設定は、ボクの部屋。
 窓からは夏の海が見える。
 白い雲。
 サーファーが波に漂っている。
 その窓枠にボクが腰かけていると、12歳年上…という設定の男性が寄ってくる。
 ふわっと抱きしめられて、軽く唇を触れ合わせる。
 互いに目を見てニッコリ笑う。
 今度は深く口づけを交わす。
 何度も、何度も。
 飽くことなく口づけを交わし、そのまま縺れ合うようにベッドへ。
 …というのがざっとしたあらすじ。
 つまりボクは役の中ではゲイなんだ。
 抱き合う男性はこの映画の中で5人。
 内この年の離れた人とラブシーンがある。
 「城くん、表情が硬いよ。」
 さっきから何度も飛んでくる指導の声。
 だって。
 最初はこのシーンなかったんだ。
 ロケで全部終わって良かったね、って。
 ロケ終わりの日に監督が台本にないシーンを入れたいって言いだして、セリフはないから兎に角
 演技力でカバーして欲しいと言われた。
 「…無理…です。」
 「城くん初めて?」
 こくん、と首を縦に振り、嘘を言ってはいない、ついただけ。と自分に言い聞かせる。
 「そっか…アイドルだし、高校生だもんな。じゃあ、更に台本書き換えよう。」
 と、初めての設定に変わった。
 抱きしめられた後、ボクは驚きの表情で男性を見返し、首を左右に振るけど強引にキスされてしまう。
 背中をトントン叩きながら、でもゆっくりと彼の背に腕を回して優しく抱き付く。
 男性の唇は徐々に身体を伝って下方へ。ボクの表情だけが映し出される。
 …難しいことに変わりはない。
 それに一番気になるのは悠希のこと。
 悠希以外の人とキス、したくないのに。
 なのに。
 「城くん、色っぽいね。」
 なんて言われちゃって悠希の腕の中を思い出してしまったんだ。
 ボクの心の中は罪悪感しか残っていなかった。
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