77.罪の意識
『罪悪感』悪いこと、非難されるべきことをおかしたという気持ち(大辞泉)
『罪の意識(がある)』悪いことをした、よくないことをしたと内心では感じているさま(Weblio類語辞書)
 どっちも違う。うん。
 ボクは別に悠希に対して非難されるようなことをしたわけではないし、悪いことをしたわけでもない。
 なのにどうしてこんなに後ろめたい気持ちになるんだろう?
 撮影が終わっての帰り道、ずっとそんなことを考えていた。
 こんなことならもう少し心くんと同じ部屋だったら良かった。
「ただいま」
 玄関のカギを開けたら、まだリビングに電気が点いていたので声を出してみた。
「おかえり」
 気が付いて返事をしてくれたのは心くん。
「撮了おめでとう」
「うん」
「あれ?ラブシーン、うまくできなかったの?」
 ん?
「なんでラブシーンって知ってるの?」
「増上さんが喜々として話していたから。」
 なんてこったいっ。
「桧川くん、ちょっと泣きそうだったけどね。」
 …心くん、楽しんでない?
「早く言い訳しに行ってきた方がいいよ?」
 ニコニコ笑顔でボクの背中を押す。
 会いたくない、会いたくない、今は悠希に会いたくないよ。
 心くんに半ば連行されるようにリビングへ着いた。
「ただいま…帰りました。」
「お帰り」
「お帰りなさい」
 悠希の顔を見た途端、涙がどっと溢れてきた。
「おいおい、どうした?」
「だって…ボク…悠希以外の男性と…」
「わかったわかった。でもそれはお芝居でしょ?オレは信じてる。だから大丈夫だから。」
 悠希は駆け寄って抱きしめてくれる。
 でもそれが逆に申し訳なくて、どうしたらいいかわからなくなる。
「城、好きだよ。」
 耳元でボクにだけ聞こえるように囁いた。
「1つだけ、オレの我が儘聞いてくれるかな?」
「なに?」
「今夜、1つの布団で寝たい」
 ボクは黙って頷いた。