84.パンッ
「つまり、城はオレを切り捨てたわけだ。」
「ちがっ、全然違うよっ。悠希とずっと一緒にいたいから、ちょっとの間だけ待ってて欲しいって
言っただけなのに。」
 なんか、腹が立ってきた。
「つーか、どうして悠希ってすぐに切り捨てるだとか二人で暮らしたいとか結論を急ぐの?ボクも
悠希もまだ10代だし、そんなに焦っても仕方ないと思うんだけど?悠希や神宮寺くんみたいに
頭良くないし、心くんみたいに器用じゃないからいっぺんにいくつも抱えるなんてボクには出来
ないだけ。だから順番にやっていくとしたら優先順位がどうしても悠希が最後になっちゃうんだ
よ。」
 悠希はムッとした顔をしている。
「ずっとずっと最後ってわけじゃない、時期が来たら必ず一番に、」
「次の映画が終わってもまた映画が入ったら、オレの順番は繰り下がるだろ?違うのか?」
 う…確かに。
「でも、受験は終わるし高校も卒業する。コンサートの振り付けも一段落する。だから…お願い、
もう少しだけ」
「わかったよ…」
 悠希は俯いたまま、呟くように言った。
「オレが城を好きなほど、城はオレを好きじゃないってこと」
 え?
「馬鹿、悠希の大馬鹿。そう思うんだったらそれで良いよ。もう疲れた。いくら言ってもわかって
くれないんだったらどうでもいい。毎晩泣いたって悔やんだって我慢するもん」
 その瞬間だった。目の前が真っ暗になった。
「?」
「城の中でオレの存在が誰よりも大切で仕事よりも大切になるまで側に居てやるから。もう、一切
遠慮はしない。」
 ボクは悠希の腕に中にいた。
 そっと腕が解かれると、顎をクイっと持ち上げられて、キスが降って来た。


 パンッ…と音を立てて、膨らみ切った風船が割れたような感覚だった。


「勉強もみてやる、仕事も出来る範囲で手伝う。だからオレの側に居て」
 悠希から三度目のプロポーズ。
「…うん」
 今は、身も心も蕩かされた後なので、罠に嵌ったように頷いていた。