| レッスン室で一心不乱に踊る君は、ボクのアイドルであり、憧れであり、少し先の未来にやってくる 恋愛対象だった。
 
 
 「桧川くん、神宮寺くん、どっちがいい?」
 いつものように窓からレッスン室を覗いていたボクに、声を掛けてきたのはマネージャー。実はボクに
 はオーディションを受けた日から直ぐにマネージャーがいた。と言っても専属ではなく兼任だけど。つま
 り、連絡係。
 「二人とも背が高くてカッコいいもんね。」
 「いや、そういう意味じゃなくて、グループを組むならどっちがいいかってこと。」
 「ボクが?」
 「そう」
 「…二人組なの?」
 「そういうわけでは…」
 なんだか歯切れが悪い。
 「あの二人だとボクが目立たないからどっちも嫌」
 そうは言ったものの、未練はある。
 「何で目立たないって思うの?」
 「あっちはカッコいいけど…僕はカッコよくない」
 「それは謙遜だよ。城くんはカッコいい。…でもそう思うならカッコよくなる努力をしてよ。」
 努力?
 「カッコいい人は何かに打ち込んでいる人が多い」
 「そうなの?」
 「そうなの!!」
 「なら…部活…」
 「そうじゃないから。ダンスレッスン、真面目にやって」
 ボクとしては十分、一生懸命にやっているつもりなんだけどさ。
 「ちゃんと一日一万五千歩歩いてる?城くんは基礎体力がみんなより若干劣っているから、まず体力作りか
 ら。ダンスレッスンもみんなと一緒にやると、遅れる確率が高いから別なんだ。合流したとき、レベルが揃っ
 ていないと困る。城くんを押すことが出来なくなる。頑張って、本当に」
 「ボク、あの二人と一緒に仕事するの?」
 「…多分。あと一人候補がいるんだ。どちらかが落ちる。そうしたらどちらかがマネージメント契約を切られる」
 げっ。そんな切羽詰まった状況なの?
 「わかった。ボク、頑張るよ」
 もう一人の人がボクを上回って頑張ったら…どうなるんだろう。
 途端に怖いという感情がボクを支配した。
 「あの…」
 「あ、彼がもう一人の人」
 えっ。
 パッと見た感じ、ボクと雰囲気が似ていた。
 そんなに背が高くなくてちまっとした感じ。
 桧川くん、神宮寺くんと一緒にダンスのレッスンをしていた。
 「この絵面、どう見たってボクが外れているよね?」
 「うん。このままだとデビューできないね。」
 ボクは初めてマネージャーの言っている意味を理解した。
 「帰る」
 「おー、頑張れよ」
 
 
 「そのチマッとしたのが僕だったんだね?」
 「ううん、違った。あとで悠希に聞いたら、家族から反対されて辞めたんだって。」
 その子がデビューしていたら、ボクではない子がdaysだったかもしれない。
 その子の親に感謝しなきゃいけない。
 あの日からボクは頑張ったもの。
 ダンスレッスンも楽器の練習も、勉強も…。
 あ。
 社長はあの時からボクに色々頑張らせていた。
 今もいっぱい頑張れって言われている。
 ということはデビューと同じくらいのご褒美が待っているのかもしれない。
 今だから頑張れる。
 精一杯無理が出来るときに頑張っておけば、きっと誰かが見ていてくれて、ご褒美が待っているはずだ。
 頑張るときは自分一人。
 そして力を合わせれば何倍ものパワーに変わる。
 「受験、頑張る。」
 「唐突にどうしたの?」
 「うん、言いたかっただけ」
 学校の帰り道に誓った。
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