86.受験生に正月はない
 えっと…
 この問題にはこの公式を当てはめて…それから…
「違う」
 ううっ、やっぱり。
「ごめんなさい、降参です、教えてください。」
「城は数学が苦手なんだね。」
「はい、そうです」
「やっぱり一芸入学でいいんじゃないの?」
 いちげい?なにそれ?
「前に話さなかったっけ?何かとびぬけた才能があればレポートと面接だけで受けられるって」
 聞いたような気がする。
 しかし、翌日学校で先生に聞いたところ、時すでに遅し。
 そんなこんなでずっと続いている受験勉強は、ラストスパートのお正月に突入した。
 ボクが希望している学校は、学科は英語と国語の2科目。後は実技試験がある。これはどんな問題が出るかは
当日にならないと解らないので、何もできない。
 朝から晩まで英単語帳は手放せない。
 仕事場でもずっと気になって仕方がない。
 ソワソワしていると悠希が別の話を振ってくる。
「焦るのは分かるけど、そんなに根を詰めると肝心な時にパンクするから」
 分かっている、分かっているけどさ。
「苦手な数学がなかったんだからもう少し気持ちを楽にしたらいい」
 …そっか。
 英語も国語もどっちも語学。
 まぁ、根本的には違うけど、でもそう思えば少しは気が楽かも。
「うん、ありがと」
 そう言いながらも家ではずっとつきっきりで勉強を見てくれた悠希には感謝している。


 いよいよ。
 受験の日がやってきた。
 持ってる力を全部出し切ればいいだけ。
 うん。


「ただいま〜」
「おかえり」
「おかえり〜」
「どうだった?」
「うん、思った以上に分かった」
「…」
 家に着くなり全員に迎えられて、ドキドキしてしまったけど。
「そりゃ、できるだろ。城のレベルからしたらかなり低い学校だもん」
 え?
「なんであそこを希望したのか不思議なくらい」
「絶対に受かってるから」
 みんな、優しいこと言ってくれる。
 涙が出そう。
「ありがとう」


 こうしてボクの長かった受験生活は終わりを告げた。

 …あぁぁぁぁぁぁぁっ
 実技だよ、実技。
 実技が残っていたよ!
「心くん、発声練習手伝って〜」
「神宮寺くん、漢字が読めないぃ」
「悠希ぃ、ストレッチの相手して〜」
 …
「城くん、僕は演劇科じゃなくて別の科にするね」
「なんで?」
「皆に迷惑かけたくないからさ…」
「ごめん…」
 筆記試験の一週間後、無事に二次試験に進むことができ、実技試験を受けた。
 ボクは知らなかったのだけれども、映画や舞台のオーディションでも同様に印刷物を一枚渡されて10分で覚えて
状況を自分でとらえて演技をするという課題が出るそうだ。
 ボクにはdaysのメンバーがいるから手伝ってもらえるし、仕事だって事務所がとってきてくれる。恵まれていること
に感謝しなきゃと、実技試験を受けながら思った。


 翌日、学校から合格の連絡が事務所に入った。