| 「すみません」 頭を下げれば良いのならいくらでも下げる。
 「僕は今、daysの仕事がしたいんです。個人の仕事はもう少しdaysが軌道に乗ったら頑張ります。だけど僕は
 daysのメンバーと一緒に頑張りたいんです。」
 新曲の話が届いた日、ボクは増上さんに電話を掛けた。
 「えっと、映画の仕事をキャンセルしたいってこと?」
 「はい。4人で仕事がしたいんです。」
 出来るだけ丁寧に話をしたらボクの気持ちが届くと、そう考えた。
 「ならさ、他の3人もその映画に出たらいい?」
 ん?
 「城くんの次の映画、主役は城くんだけど、他の3人も出た方がいいんじゃないかってなって、今脚本を直して
 いるんだけど。」
 「やります!」
 4人の仕事ならやりたい。
 増上さんがくすりと笑った。
 「城くん、かわいいね。」
 え?
 「本当にdaysが好きなんだ。分かった、今の話進めるよ。本当はさ、次の映画はとあるミュージシャンの自伝的
 映画だったんだけど、その脚本が遅れてて、延期になったんだ。だから代わりに4人が大学でナンパ三昧みた
 いな女の子が喜びそうなキュンキュンする恋愛映画の話が来ていたんだよ。」
 へー。
 「って、ボクのことだましたんですか?」
 「ごめん」
 ま、いいか。
 「映画の撮影の合間に、メイキング映像と、イメージ動画を撮ってDVD化したときに特典にしようかって話も出て
 いる。それと、」
 それと?
 「遂に出たよ、全国ツアー。」
 「やった!」
 「3人には内緒だよ?みんな揃った時に話したいから。」
 「了解です。」
 …そう言ったのにさ、ボクはその夜みんなの前で話しちゃったよ。
 全国ツアー。
 そしていつかホールツアー、アリーナツアー、ドームツアーなんて大きな会場でできたらいいなぁって思う。
 まず始めは2,000人前後の収容人数があるステージで、ある程度ダンスが披露出来て…それから…と、夢は
 広がっていった。
 
 
 次の打ち合わせの時、増上さんにまず怒られた。
 「城くん、みんなに話しただろ?内緒でって言ったのにさ。」
 「あっ!ごめんなさい」
 確信犯です。
 「城くんが話しちゃったみたいだけどさ、ホールツアーに決まったから。全国8か所。これなら無理なく回れるだろ?」
 …
 …
 回れるだろって…
 「そんなに入ります?」
 神宮寺くんが心配そうに聞く。
 「君たち、ドラマの視聴率、聞いた?」
 「いえ。」
 「寛永っ、言ってないのか?」
 「あ、すみません」
 「何だよ…深夜ドラマで10.2%。これって驚異だよ。」
 そうだよ、確か今話題の視聴率男さんのドラマだってゴールデンで14%とかって言っている。
 「凄い…」
 「だろ?これで映画があって、ツアー。完璧だろ?daysの時代がやってくる。これで高学歴グループとなれば、将来も
 安泰。うちの会社も万々歳。」
 …そうか、万々歳か…そうなのか?
 何だか踊らされているような気がするけど…いいか。
 増上さんのテンションに、いまいちボク等はついて行けていなかった。
 
 
 実感がわかないまま、ボクは高校の卒業式を迎えた。
 クラスメートと一年後の再会を約束して、心くんと帰路についた時だった。
 「あっ、城くんが出てきた!卒業おめでと―」
 一人の女性の声を合図に次々と人が押し寄せてきたのだ。
 学校は芸能人が多く通学するのでそこは心得ていた、素早く心くんとボクを校内に引き入れ、秘密の出入り口から
 放出してくれた。
 「えっと…今、何があったんだろ?」
 あまりの素早い行動で、何があったのかさえ分からない状態だったけど、どうやらややこしい事態だということは理
 解した。
 「追っかけというものではないかと察するんだけど。」
 心くんが冷静に判断した。
 「明日から心くん平気かな?」
 「多分…ねぇ、城くん。どうして城くんだけデビュー前に別メニューだったか教えてあげようか?」
 「え?ボクが劣等生だったから…」
 「違うよ。城くんが完璧なアイドルだったから、事務所側で純粋培養したんだよ。だから、僕は平気。」
 心くんの言いたいことが解らない。
 「でも、ボクは4人で一緒にいたい。」
 心くんがニッコリ笑った。
 「うん、僕も。」
 「よし、じゃあ急いで帰って仕事に行こう。」
 「うん」
 
 
 マンションに帰り着くと、そこに寛永さんがいた。
 ボク等それぞれにマネージャーが付くそうだ…それって更に個人の仕事が増えるってことかな?
 寛永さんはボク、新しく来た池上さんが悠希、神田さんが神宮寺くん、大神さんが心くん…池上さんが女性なのが気
 になるんだけど。
 っていうか、いつの間にかマンションのリビングが打ち合わせ室になってる。なんだかいつも仕事しているみたい。
 寛永さんは映画の台本を置いていくと、今日の仕事はこれをしっかり読んでおくこと、つまりフリータイム。
 確かダンスレッスンが入っていたような気がしたけど、まぁ、いいか。
 リビングが元のリビングに戻って、4人それぞれが台本に目を通し始めた。
 4人とも大学生の役。
 心くんとボクが1年生で悠希と神宮寺くんが3年生。洋楽愛好会で出会って…ん?
 「この洋楽愛好会って…」
 「バンドのようだね」
 それって…
 「さっき、寛永さんが忘れていった封筒に、カギと地図が入っている…」
 貸しスタジオの地図…。
 「ダンスじゃなくて、楽器の練習日なわけね、今日は。」
 ええっ!!
 慌てて台本をめくると、ボクの役柄の所に《ドラム》の文字。
 なんてこったい…。
 神宮寺くんがギター、悠希がベース、心くんがキーボード。
 これから楽器の練習かぁ…頑張るよ…。
 こうしてまた新しい敵が向かって来たのだった。
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