| ドラムの練習は、三日頑張って楽譜を覚えて手足が別々に動くようにまではなった。 ただし、やっと頭が理解しただけで身体は全然ついてこない。
 部屋に帰って来るとヘトヘトで何もしたくない。
 後から部屋に入って来た悠希がボクの顔をみるとニッコリ笑って言った。
 「城、一緒にお風呂入ろう?」
 え?
 今、一緒にって…言った?
 「…何?お風呂入らないの?」
 「ううん、入る。入るけど…恥ずかしい…」
 「男同士なのに?」
 …
 確かに。
 心くんとは一緒に入る。
 けど…。
 「変なこと、しない?」
 「しないよ」
 その後のニッコリを確認しておけばよかった。
 
 
 このマンションは二世帯同居を意識して設計された部屋なので、バスタブが大きい。
 「一緒って、湯船なの?」
 さっきから悠希がニヤニヤしながらボクを見ているからドキドキしちゃう。
 「城」
 名前を呼ばれ、上目づかいで視線を移す。
 「好きだよ。最近、全然言えてなくてごめん。」
 「あ…そっか、そうだよね。」
 最近、ボクは悠希に対して大好きを押し付けていたかもしれない。
 「ごめんね、悠希がプロポーズしてくれたのに全然応えられていなくて。言い訳になっちゃうけど、受験が
 あったり仕事が重なっていたり卒業式があったりして悠希の好意に甘えてずっと放置していた。」
 悠希はボクの体に手を伸ばすと腕を回し、ギュッと抱きしめてきた。
 「オレはね、城に例え嫌われたとしても、この先別々の道を歩むことになっても…城のこと愛せなくなって
 しまっても…好きって気持ちは変わらない。愛は冷めるかもしれないけど、恋することは止めない。だから
 どこまでも放置してくれても待っていられるから。ただ、言ったとおり、愛が冷めたら一緒に暮らすことはし
 なくなると思う。それだけは覚えていて。」
 「悠希、愛が冷めるって?ボク、悠希が初恋だから分からないんだ…ごめん。」
 すると悠希の顔が一気に赤くなった。
 「なんで…城はこんなに可愛いんだろう?」
 そう言うとボクの顔から首から身体から、あらゆる場所にキスをし出した。
 「悠希…恥ずかしいから…」
 裸でキスなんてしたら、その…。
 「その気になっちゃう?」
 悠希の唇がボクの耳元で囁く。
 「こっちは、その気みたいだけど?」
 
 
 お風呂から出て、そのままボクは悠希に散々泣かされた。
 疲れているって言っていたのに。
 でも、今朝はなんだかすっきりとした目覚めだった。
 悠希はボクに腕枕をしたまま、幸せそうな顔で眠っている。
 …いつ、心くんと部屋を入れ替わったんだ?ボクに内緒で。
 綺麗な顔をまじまじと見つめていたら、悠希が目覚めた。
 「おはよ。」
 「おはよう。ねぇ、いつ荷物を入れ替えたの?」
 「ん?ああ、城がなかなか決断しないから、神宮寺くんを説得して昨日の午後入れ替えた。これで神宮寺くん
 と心くんは名実ともに夫婦だな。」
 いや、こっちも変わらないのでは?…とは言わないでおこう。
 「城、夕べはオレのことだけ考えてた?」
 「当たり前だよ、あんなこととかこんなこととか、二人きりだって口に出せないようなもの凄いことしてくれたじ
 ゃないか。」
 慌てて悠希の胸に顔を埋めた。
 「でもすっきりしたでしょ?」
 すっきり?
 「うん。確かに頭がはっきりしている。」
 「じゃあきっと、城が抱えている問題もすっきり解決するよ。」
 悠希はボクの返事を待たずに、唇を塞ぎに掛かった。
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