91.新生活
 明日から新学期。
 高校最後の1年が始まる。
 でも。今年からは一人で通学しないといけない。
 城くんがいないとこんなに不安な気持ちになるなんて思いも寄らなかった。
 城くんは意外と…って言ったら失礼だけど頼りになる。
 僕を守ってくれようといつも周りに神経を使っていた。
 明日からは自分で自分を守らないといけない。
 慧くんに言えば送ってくれるだろうけど、言いたくない。
 弱い僕なんて見せたくない。
 折角同じ部屋での生活が始まったのに。
 週に一回…って、約束したばかりなのに。


 明日から大学生。
 悠希も神宮寺くんも通信制なので、一ヶ月に一回通学するだけ。でもボクは行けるときは出来るだけ行か
ないと単位は貰えない。
 選択、失敗したかも。
 初めて衣装以外のスーツを着た。この間仕事帰りに悠希に付き合って貰って買った。
 馬子にも衣裳ってずっと「孫」だと思っていた。ことわざって結構差別用語だったりする。だから最近はボク
みたいに間違って覚えていたりすることが多いのかもしれない。
 正しい日本語を覚えることが、まずボクには必要だと思う。


 城には内緒にしていたけど、編入手続きをした。通信制だと、1年間では通学の半年分くらいしかないから、
1年の9月に編入する。そこを無理言って、1年の初めから通わせてほしいと頼んだ。
 だったら受験すればいいと思うけど、それだと城を脅かすことが出来ない。
 たまたま、城が同じ学部だったのが幸い。
 2歳違いたけど、同級生になった。
 一緒に買いに行ったスーツは、城に良く似合っていた。
 入学式はこっそり後ろから見ようと思っている。
 仕事でもない、プライベートでもない、学校での城にもう一度会えるのは嬉しい。


 俺もかなり心にぞっこんだけど、悠希は尋常じゃないな。
 仕事をしながら大学に通学するって半端じゃないよな。
 まあ、通信制だと6年かかるけど、通学だったら4年で卒業できる。悠希は1年短縮したわけだ。
 俺は今、せっせと貯金をしている。
 夢は心と二人で超高層マンションで暮らすこと。
 毎晩心をヒーヒー言わせて、足腰が立たなくなるくらいなセックス三昧の生活をしてみたい。絶対に無理だ
けど。
 でも、週1回をせめて3回に増やして欲しい。ささやかな願いだ。


「おはよっ」
「おはよう」
 ボクたちはほぼ同時に目覚めた。
 悠希の腕の中で幸せな目覚めだ。
 リビングには神宮寺くんと心くんがいた。
 心くんは今日が始業式。
「心くん、7分の電車でいつもの場所に乗ると、ボクのクラス担任だった先生が乗っているんだ。何か問題が
あったら頼るといいよ。」
 心くんが一人で通学するのは心配だった。
「なら俺が送っていくよ。」
「大丈夫、僕は一人で行けるから。」
「うん、来週からは駅まで一緒に行けるよ。ボクも同じ時間に出る予定。」
「そうなの?」
 心くんがちょっと嬉しそうな表情になった。
 それを見た神宮寺くんと悠希がかなり複雑そうな表情になったけど、見なかったことにしようっと。