92.全18曲
「映画が公開した後、コンサートツアーのチケット販売になります。」
 寛永さんが映画の撮影現場に送ってくれる途中、車の中で言われた。
「本当は夏休みにツアーをしたかったんですけど、会場を他のアーティストに抑えられてしまったので、
時期を秋にずらしました。」
 そう言われてボクは正直ホッとした。
「その代わりアルバムが出ます。既にアルバム用に録音がしてある楽曲が5曲ありますし、シングル3曲
があるのであと2曲録音しますけど、これは映画の挿入歌です。主題歌のシングルがあるので全3曲です
ね。カップリングは呼び録音してあるものを使用します。」
 寛永さんがスケジュールを説明してくれているけど、いまいち把握できない。
「えっと、整理すると映画の撮影があって、楽器の練習があって、アルバムとシングルの録音があって、
その合間に学校へ行って、その後コンサートの練習があるってことかな?」
「映画のプロモーションもあります」
 うへぇ…。


「暫くハードだね」
 またまたリビングが緊急会議室になる。
 ボク等四人でスケジュールを理解していく。
「とりあえず宿題として出されたのは、コンサートで歌いたい楽曲だ。」
 神宮寺くんが仕切る。
「シングルは全部歌いたいよね、それと新しいアルバムの7曲。シングルのカップリング。映画の主題歌と
カップリング。これで15曲。ちょっと少ないか。せめてあと3曲。」
「あの…」
 心くんが水を差すように手を上げた。
「新曲でもいいけどさ、振りはどうするの?」
 …
 …
 …
 全員が固まった。
「映画の撮影があって、楽器の練習があって、アルバムとシングルの録音があって、学校へ行って、コンサ
ートの練習があって、映画のプロモーションがあって、振り付けを覚える…ということだね。」
 ダメ押し…。
「…大丈夫、コンサートツアーは秋だから、夏休みに覚える。」
 ボク以外の全員が表情を明るくした。
「そうか。心には酷かもしれないけどさ、大学には宿題がないからさ、出来るな。…って、心は受験か。」
「それは大丈夫、推薦で行こうって決めてるから。」
 え?推薦って自分で決められるの?先生が君は優秀だから推薦しましょうって言われるのかと思った…って
そんなこと、今はどうでもいいから。
「映画の撮影もあと少しだし、あとは演奏部分だけだから。あ、演奏を入れたらどうかな?ってボクが言うのも
なんだけど。」
 ハードル、20センチくらい上げちゃった。
「いいんじゃないかな。じゃあ、18曲でいいか?少ないか?」
「それだけどさ、18曲に異論はないけど、他のグループのコンサートを観に行かないか?」
 悠希が発言した。
「参考にできることがありそうだし、全員で行ってみないか?チケットはオレが手配するから。」
「会社に黙って?」
「ダメかな?」
「一応報告した方が良くないか?」
 神宮寺くんと悠希が楽しそうだから、心くんとボクは黙ってみていた。
 結局、増上さんに連絡することにした。
 増上さんが手配してくれたお勧めのLIVEに、土日で2人ずつ出掛けた。
「凄かったね。ボクたちもあんな風に歌えるかな?」
 ダンスユニットなのに三曲も歌だけで魅せる演出があったのだ。
「オレとしては歌自体を聴かせられるようにしたい。」
 えっと、えっと…悠希、またハードル上に上げたでしょ?
「映画の撮影があって、楽器の練習があって、アルバムとシングルの録音があって、学校へ行って、コンサート
の練習があって、映画のプロモーションがあって、振り付けを覚えて、歌の練習が追加…ってことだね?」
「そう。だってこれがオレたちの仕事だから。頑張ろう。」
 ボクは小さく頷いた。
「大丈夫、オレがそばにいてやるから。」
 悠希の心遣いは嬉しいけど、映画の撮影も、楽器の練習も、歌の録音も、学校も、コンサートの練習も、映画の
プロモーションも、振り付も、歌の練習も、全部自分でやらないとダメじゃん。