93.レコーディング
 大学では演劇学科を専攻している。
 しかし。
 一年では専門分野へは行かず、基本的なことを学ぶ。
 つまり。
 高校とあまり変わらない。
 入学式の後、教室に行くと…悠希がいた。
「なんで?」
「編入した」
「どうして?」
「同じ学部だったし、城が楽しそうだったから。」
 わぁ…。
「嬉しい」
 素直にうれしい。
 悠希と一緒に学校に通ったのは一年。
 でも正確には半年くらい。
 ボクがみんなと合流したのは夏休み。
 それまでは別々に通っていたから中々会えなかった。
「でも、折角一年頑張ったのに。」
「楽しいほうがいいでしょ?」
「うん」
 予想外のサプライズに、ボクはかなりテンションが上がってしまった。


 入学式の後、一通りの説明があって、その日はそれで終わり。
 翌日からいよいよ授業が始まる。
 殆ど授業の時間は同じだけれど、第二外国語と体育の選択科目が違った。
「へー、悠希はドイツ語なんだ。ボクは中国語。」
 ちょっとビックリした。
「授業の曜日が違うんだね。体育は同じだけど。」
 こちらも悠希はバレーボールで、ボクはテニス。
 そんな話をしながらレコーディングスタジオに二人で向かう…なんて新鮮な行為だろう。
 今までは一緒に行くといったら心くんだった。
 朝だって悠希が車を出してくれて、一緒に来る。
 まさか悠希が編入試験を受けているなんて知らなかったから、学生生活は一から友達を作って…なんて
考えていたけれど…。
 ん?
 これだとボクには大学で友達が出来ないんじゃないか?
 なんか…本末転倒。
「悠希。友達も作らないと学生生活謳歌できないよね?」
「あ、ばれた?城に友達作らせない作戦だったんだけど。」
 運転中なので前を見ているけど、目が笑っているから本気じゃないよね?
「高校時代のクラスメートも何人か来ているから、直ぐに友達は出来ると思うんだけど。悠希は逆に年下ばか
りだから友達になりにくい?」
「そんなことはないけどさ…最初の刷り込みは大事でしょ?」
 悠希の言う刷り込みの意味が分からない。
「城が最終的にはオレを頼ってくれたらいいなていう願望…ごめん、ただの嫉妬。学生時代の友達は大事だ
よな、そうだよな。」
 悠希が何か、自分に言い聞かせている。
「明日から、もっと積極的に学生生活するからさ。今日だけは我慢して。…あー、オレって何時からこんなに辛
抱できない性格になったんだろ?城のことだったらなんでも受け入れる、なんでも我慢する、いつまでも待てるっ
て信じていたのに。」
「悠希。」
「ホント、ごめん。」
「だーい好き。だからそんな卑屈になんないでよ。ボクの帰るところは悠希の腕の中だからさ…ってこっ恥かし
いんだけど。」
「うん…ありがと。」
 悠希が耳を真っ赤にして、照れ臭そうに笑った。
 悠希の運転する車は、レコーディングスタジオに着いた。
 これからは、daysの悠希と城として、仕事するぞー。
 車のエンジンを切ると、悠希は素早くシートベルトを外し、ボクの唇にキスを落とした。
「恋人のオレも、忘れないで。」
「忘れるわけないでしょ?ってか、こんな場所で、増上さんに見付かったらどうするんだよっ。」
 油断も隙もない。
「だってオレたちアイドルだからさ、永遠に結婚はしないじゃないか。だったら二人の関係も公に出来ないんだか
ら、ずっと秘密の恋人じゃないか。」
 そっか…前途多難だな。