96.マニア
「でね、城くんがさ」
 さっきから心はずっと城の話をしている。
「僕さ、初めて城くんに逢った時、彼こそがアイドルだって確信したんだよね。彼に着いて行くって決
めたんだよ。彼と一緒だったら絶対にアイドルとして成功するって思っている。いまだって城くんが一
番忙しいってことはそう言うことなんだよね?」
 ちょっと…腹が立つ。
「俺だってそこそこ人気があると思うけど?」
「慧くんはダメだよ。daysの柱は城くん。」
 …かなり腹が立つんですけど?
 俺は何も言わずに心の身体を抱きしめた。
「…だって、慧くんの人気がこれ以上出たら、僕なんかどうでも良くなっちゃうかもしれないからさ…ち
ょっと嫉妬させてみようかと思っただけで、怒らせる気は毛頭ないんだけどさ、怒っちゃった?」
「物凄く」
 可愛い。
 そのまま押し倒して、朝までお仕置きをした。


「おっはよーっ!…あれ?心くん目が赤いよ?」
「おはよう…うん、遅くまで試験勉強してた。」
「すげーっ、ボクなんて疲れて寝ちゃったよ。昨日の振り付けはハード過ぎたもんなぁ。心くん元気だなぁ。」
 僕に感心しながら城くんはリビングへ行ってしまった。
 …良かった、寝不足の本当の理由を気付かれなくて。
 キッチンでは慧くんと桧川くんが一緒に朝食の準備をしている。
 四人一緒の仕事の日は、朝食の支度も一緒。
 でも、多分慧くんは出来れば桧川くんがやってくれないかとちょっと期待しているんじゃないかと想像して
いる。
 サクサクと洗面を済ませてリビングへ行くと、案の定キッチンにいるのは桧川くんと城くん。
「神宮寺くん、テーブルの上を何時まで片付けているの?」
 なんて、城くんに叱られている。
 僕は朝のこんな風景が好き。
 最初、事務所の営業の人が、寮にするか共同生活にするか好きな方を選べって言ってくれた。
 四人一致の意見で共同生活になった。
 毎日が修学旅行のようで楽しい。
 僕達は全員実家が都内だけれど、結束力を強めるためと言われてここへ来た。
「心くん、これ運んでっ」
 城くんがキッチンで叫んでいる。


 慧くんが運転する車で、四人一緒に移動。
 今日もコンサートの練習。明日は映画のポスター撮り。
 毎日忙しい。
「♪明後日は、お・や・す・み♪」
 城くんが楽しそうに歌っている。
「僕は学校」
「俺も月一の学校」
「オレは体育だけある」
「ボクはフリー♪」
 城くんは毎日とっても楽しそうに生活している。
 デビュー前は無口だったんだけど、最近は地の部分が大分出てきたようで、天然の楽しさがある。
「城くん、お休みは何するの?」
「溜まっている洗濯!」
 そっか、僕は学校から帰ってきて洗濯機に放り込んでいるけど、城くん忙しいもんね。
「心くん、城は忙しくて溜まっているんじゃなくてズボラで溜まっているんだ。」
 桧川くんに言われて
 てへへ
と、頭を掻く。
「抱き枕は?」
「洗うっ!」
 久し振りだね、抱き枕。
 最近は使っていないのかなぁ?
 僕、城くんと一緒の部屋の時の方が楽しかったかもしれない。
 そりぁ、慧くんと一緒にいられるのは嬉しいけどさ、やっぱり、ね、その…週2くらいが理想かなぁ…
って今夜話してみよう。


「心、」
「ごめん、ごめんね。決して慧くんが嫌いとか、慧くんのえっちがしつこいとかそう言うことじゃなくてね、
学校のこととかあるし、仕事も中途半端になるから少しゆっくりしたい日もあるなぁ…って。」
 慧くん、怒ったかなぁ?
「ごめん、気付かなくて。俺は心が可愛くて仕方なくて、ついついブレーキを掛けずにいた。休みの日に
しような、今度からは。」
 良かった、理解してくれた。


「でね、城くんがね…」
「心、嫉妬して、いいか?」