98.絶賛上映中
「ねーねー、一緒に行こう?」
 なんだ?急に城が積極的にオレを映画に誘って来たんだ?
 いつもは一緒に出掛けるなんて絶対に断ってくるのに。
「心くんがさ、自分たちの映画だから一緒に行っても誰も怪しまないって言ってたんだ。確かにそうだ
よね、怪しむ意味がないよね。」
「城。」
「何?」
「城はそんなにばれるのが怖い?」
「うん。だって社長に怒られるから。」
 あ、そっちか。
「まだ売り出し中なんだから恋愛沙汰なんて起こしたら承知しないからなって散々言われてきたからさ。
まさか、グループ内で二組も恋愛しているなんて思っていないだろうけどさ。」
 実は、社長は気づいているんだ。しかも初めからこの二組がペアになると仕組まれていた感じがある…
ということは城には黙っていよう。だってオレだって自分で城を選んだと信じているから。
「じゃあ、デート、行こう?」
「うん」


 オレ達は結局レイトショーにやって来た。
 そんなわけで人があまりいない。
 振り返ったら別のアイドルグループのメンバーたちがいたりしてかなり驚いたけど。
 しかし、デートってそんなにしたことないからドキドキする。
 このドキドキは好きのドキドキなのか、誰かに勘繰られないか心配のドキドキなのか…。でも自分たちの
出演している映画なら誰かに見咎められても言い訳はある。
 それより、後ろにいるアイドルグループの関係性の方が気になるけど。
 そんなことをグルグル考えていたら、オレの手に城の手が重なった。
 偶然かと思ったら必然だった。
 城がこんなに積極的になるなんて想像もつかなかった。
 最初のころはツンデレだったし、なかなか手出しも許してくれなかった。
 それがいつの間にかオレが思い描いていた恋人像に近づいている。
 これならもう少しで嫁に来てくれるかもしれない…なんて想像もしてみる。
 想像しながら、画面を見て焦る。
 城のドアップ。
 社長、監督、ありがとう。
 こんな大画面で見ることなんて、普通だったらありえない。
 日常生活では体験できない、城の演じる姿。
 そんな思いを抱いていた。


「始まって7分くらいの所でさ…」
 帰り道、城は今見てきた自分たちの映画について、感想を話す。
 オレは隣に居る城ばかり見ていて殆ど内容を覚えていない。
 けれど城は細かい部分までしっかり見ていた。
 なんだか…城とオレの温度差は何なんだ?
「それでさ…悠希ってやっぱりカッコいいなって…」
 え?
「どのシーンもカッコいいから監督に嫉妬しちゃったよ。」
 てへへ、と笑う仕草まで…可愛い。
「今度は悠希だけが出ている映画が見たいっ」
 そんなことを言われたら安請け合いしそうだ。
「オレ…前回の城の映画、観に行けなかったんだ。次の映画は一緒に行こうな。」
「うん」
 城は今、オレと同級生だけど、等身大の19歳で。
 まだちょっと子供っぽいところが残っていて。
 だから、焦らずに二人の時間を紡いでいこう。


 オレたちが映画を観に行った翌々日、無事に舞台あいさつに立てた。
 一緒に視聴…という夢は残念ながら叶わなかったけど、上映後の挨拶だったのでお客さんも、もちろん四
人とも映画の内容を把握した状態で話が出来たので良かった。
 お客さんからの歓声は、変わらずに神宮寺くんとオレには「カッコいい」で城と心くんには「可愛い」だった。
 いつか、四人全員に「カッコいい」の声が掛かってしまうのだろうか?
 ちょっと残念な気がする。
 その時はdaysとして四人で舞台に立っていることもないような…そんな気がしてならない。
 オレたちの未来はどこにあるのだろう…と思っていた時だった、
 「ボクたちdaysの結成3周年となる来年には無理だと思うけど、5周年に向けて全国ツアーをやることが今
の夢です。」
と、城が語った。
「僕はドームツアーが将来の夢です。」
と、心くんが語った。
 二人の夢は先へ先へと四人で繋がっていたんだと、目が覚める思いを抱いた。
 そうだ、オレたちはまだ歩き始めたばかりだった。
「俺はいつかミュージカル映画をやりたいです。その時また、四人でここに立てていたら素敵ですね。」
 神宮寺くんの夢にも四人というキーワードが入っている。
 オレは…どうしたいだろう。
「オレは、今日の舞台挨拶、秋からのツアーで頭が一杯だけど、5年後、10年後にもやっぱりこうしてみなさん
の前に立てることができるように精一杯頑張ります。」
 そうだった、オレたちは四人で始めたんだった。


 大丈夫、オレたちに未来はある。