「ヒデが?」
あいつ…
「すまん」
「喜多邑に謝ってもらおうと思ったんじゃない。ただ…」
仁志が口ごもる。
「喜多邑も僕を女扱いしたいわけ?」
「何でそういう展開になるわけ?」
仁志はかいつまんで尋之の話をした。
「違うだろう?誰もお前を女扱いなんてしていない。恋愛対象なだけだ。」
すると汚いものでも見るような顔で見返された。
「いままでずっとずっと僕をそんな風に見ていたんだ」
尋胤は悲しげな眼で仁志を見た。
「そんな風って、なんだよ…人間が人間を好きになることのどこがおかしいんだ?ヒデは愛情表現が性交渉なんだろうが俺はお前と親友としてでも一生付き合って行ければと願っただけだ、それが悪いのか?」
「ごめん、そんなつもりじゃなかったんだ」
尋胤は墓穴を掘ったことに気付いた。これで和隆とは肌を合わせることが叶わなくなった。
―俺だって和隆を泣かせてみたかった―これは心の中のつぶやき。
「尋之は私が責任をもって処分する」
「わかった」
確実に尋之の方に分がある。
「…尻、大丈夫か?」
途端に顔を真っ赤にする。仁志のこのウブな所が可愛くていじめてしまう。
「何がいいか悪いか分からない。病院にいけないから…だからその…見て欲しいんだ」
…
「お前の尻…か?」
「ああ」
悪意があるのかないのか、天然なのか馬鹿なのか、全くわからない。
「出血はあったのか?」
「…なかった」
「痛みは?」
言い淀んでいる。
「痛みは?」
再度聞く。
「入れられたときだけ、あとは平気。」
「…イッた?」
更に顔が赤くなり耳まで真っ赤だ。
こくん
言葉に出来ずに頭を動かした。
「薬局で痔の薬を買ってつけておけば大丈夫だろう。問題は病気だな。」
まだ赤い顔のまま和隆は疑問を口にした。
「喜多邑、もしかして…いや…」
「なんだよ?」
また言い淀んでいる。
「…仁志、お前教師に向いてないよ。うちに来ないか?今研究員を探している。」
尋胤の職場は薬品会社。ここでウィルスや細菌の研究をしている。
「大丈夫だよ…男性経験があるのか聞きたかったんだ。」
「あるよ―そう言っても嫉妬しないよな?」
ずくん…
その時、仁志の心臓は不規則な脈を打ったのだった。
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