南中道真人(みなみまこと)。もう一人の行動心理研究会の部員である。
「先生、この時の馬の心理なんですが…」
「ギャンブルなら助言はないぞ。」
すると仁志を振り返りもせずに
「乗馬です」
と言う。
「前に話したじゃないですか、僕は三歳から乗馬をやっているのになかなかコミニュケーションがとれないって。全く、喜多邑のことばかり考えているからじゃないですか?」
案の定、赤い顔をして否定を始めた。
―やっぱりそうなのか…―
実は…
初めて尋之に犯された日から毎週同好会の活動が休みの水曜日には必ず理科準備室に堂々と入ってきて恋人気取りで話込んでいく。親友の弟だし顧問だし…という理由をつけてなんとか我慢しているが仁志は恐怖感を覚えている。
「南中道、お願いがあるんだけど聞いてくれるかな?」
南中道の顔がぱっと明るくなった。
「水曜日も活動をして欲しいんだ。」
あからさまに落胆する。
もっと色気のある話だと思ったのに―内心思ったがこれは尋之との関係を否定しているんだととることにした。
「わかりました。あ、今日のお客さんは三年の…」
とりあえず、まだ希望はあるのかな…と心の中で呟いた。
「ところで、何で水曜日も部活やるんですか?部員が増える予定でもあるのでしょうか?」
仁志はあからさまに困った顔をした。
「…来年度、同好会の定員五名もしくは部に昇格の十二名に満たなければ廃部になるんだ」
それは事実だ。今までは同好会に定員などなかったが秋の人事異動でやってきた校長はあまりの同好会の多さに定員を設けたのだ。
「分かりました」
南中道は仁志の顔をじっと見詰めていた。
南中道が仁志に好意を抱いたのは、入学してすぐだった。
日曜日の昼下がり、借りていた図書館の本を返しに向かっていたとき、通り掛った公園で犬の散歩をしていた仁志を見掛けた。
その時の笑顔が入学式の日に見た顔とかなりギャップがあったので暫く見ていた。それに仁志が気付いた。
「新入生の南中道くんだよね?犬好き?」
仁志が担任でもないのに、南中道の名を覚えていたのが嬉しかった。
「苗字が珍しかったから、どんな子かなって興味があってね」
犬は仁志になついてて話しているあいだはずっとおとなしく待っていた。
「名前、なんですか?」
「和隆…は!犬か!小太郎だ!」
仁志は真っ赤になって訂正した。
「南中道?」
「あ、すみません、先生見ていたら小太郎くんを思い出してしまって…」
南中道は失言に気付いた。小太郎は先月、仁志の妹―柄凛木高等学校1年仁志一枝―が散歩中逃げ出してしまったのだ。
「小太郎、元気かなぁ〜なんで逃げたんだろう…」
涙声になりながら気丈に話す姿にも惹かれてしまう。
「部員を勧誘しましょう、喜多邑にもやらせます。」
体がびくりと揺れた。
「そう、だな。頼んだよ」
南中道は二人の関係を追求しようと決めたのだった。 |