第五話  交換条件
「残念ながら、身体のカンケーしかないよ」
 尋之は南中道に視線を合わさずに言った。
 やはり、この男は仁志に酷いことをしていたんだ―南中道はそう解釈した。
「真人もカズ君のこと好きなわけ?でもまだ離したくないな…真人が代わってくれるなら話は別だけどな。」
 南中道は女子生徒にモテる。なんでこんな同好会にいるのか謎に思っている子は多かった。
「いいよ。それで先生を自由にしてくれるなら。」
 大きくて澄んだ瞳が尋之を見た。
「ここで?それとも…」
 ドキン…
 尋之は心臓まで跳ね上がった。
「冗談だ…よな?」
「先生を自由にしてくれるなら僕は何でもする。言っておくけど僕は先生とどうにかなりたいなんて思ってない。先生には好きな研究を続けて欲しいんだ。優しくて頼りないけどそんな先生だから好きなんだ。」
 尋之はうつ向いたまま顔を上げられなかった。
「カズ君を好きなのは兄貴なんだ。オレ、兄貴に勝ったことなくて、他に思いつかなかった…。」
 南中道は尋之を抱き寄せた。
「先生に謝ろう?傷付けてごめんなさいって。」
 南中道の腕の中で尋之はいやいやと首を振る。
「そうしたら兄貴とカズ君がひっつくよ?」
「喜多邑はお兄さんを先生に取られたくないんだな?」
 尋之は考える。
「兄貴が取られる?いや、兄貴にカズ君を取られるのがいやなんだ。他の人なら構わない、多分…」
 南中道は尋之の唇に自分の唇を重ねた。
「今から僕達は恋人だ。だから先生に何があっても関係ない、そうだろう?」
 尋之の背中に腕を回し、「やり方がわからないんだ」と耳元で囁いた。


 一週間後。
「先生」
 南中道が尋之を連れて職員室へ現れた。
「部員ですけど14名集まりました」
「全部女だけど…」
 尋之が不満そうに告げる。
「それから…」
「先生、もういたずらはしません、すみませんでした」
 尋之が頭を下げ、南中道がうれしげにみつめる。
「わかった。その件に関しては部室で話す。」
 二人は先に部室へ向かった。


「だから、理科準備室でカズ君とはセックスしない代わりに場所を提供して欲しいって言ってんの。真人が勧誘してきた女、可愛いのが多いんだ。」
 仁志の頭にカーッと血が上った。
「そんな目的であの部屋は貸せない。」
「じゃあ部室だな、真人」
「うん…仕方ないな」
 南中道までそんなことに加担しているのか…。仁志は絶望的になった。
「女の子の恋愛相談、部室だと嫌がるんだよな、筒抜けだからって。」
「え?」
「だからっ…カズ君じゃない、仁志先生はいつも人の話を聞いていないよな。部室って言ったって正式な部活動じゃないからここは一般教室の片隅だろ?だから男子しか相談に来ないんだよ。女生徒は部室以外で相談を受けたほうが良いんだって。理科準備室は使えないかな?」
 あからさまにホッとした顔をした仁志をみて二人は思わず苦笑した。
「センセイ、オレさぁ恋人ができたんだ。だからもうセンセイで練習しなくてもいいんだ。ごめんな。」
「な、何を…って、わかった、今回の件は水に流そう。で、部員が一気に16名に増えてもまだ占いを続けるのか?」
「まだ仮入部ですから。まず恋占いで釣ってからってことで。」
「そうか…」
 暫く占い師の仕事が続くのが、仁志の頭痛の種だった。