第九話  愚痴
「お前さぁ、友達いないだろ?」
 尋胤はベッドに腰掛けフォークギターをつま弾きながら笑って言った。
「仕方ないだろ…」
 仁志は子供がすねるように唇を尖らせた。
「当て馬っていうのは聞いたことあるけどやり馬はいないよな」
 いたら困るだろうが…思ったが口にする前に呑み込んだ。
 仁志は尋之の思惑通りに動いていることは腹立たしいけど尋胤の言う通り他にこんなことを話せる知人は思い当たらなかった。
 東埜が飛行機事故で逝ってからずっと考えていた。これから誰を待っていたらいいのかと。
 待つのではなく行かなくてはいけなかったんだと尋之が言う。
 東埜は自分のことを何と思うだろう?と。
 言われなくても仁志にはわかっていた、尋胤と友人以上の関係を望んでいることを。
 しかしそれはただ自分の世話を焼いてくれる友人に対して好意の勘違いをしているだけなのかもしれない。
 事実、尋之に尋胤から好意をもたれていると聞いたときは動揺した。仁志は自分が男を求めることに違和感を覚えていたからだ。
 初めて交際した人は中学の同級生、放送委員の女の子だった。ファーストキスは普通にドキドキしながら通過した。
 高校の時は後輩にモテた…と言っても男ばかりだったらしい。らしいというのは本人は知らなかったからだ。卒業の時にファンクラブがあったことを聞いた。仁志には手を出したらいけないというきまりがあったそうだ。
 本人は二人の女の子と普通に交際して消滅した。
 そして大学に入って東埜に会った…。

「なんでだろうな、僕は何でだか男にもてるんだ。」
 尋胤の顔を見ながら困ったような表情を作る。
「父親は堅実な人生を歩めといって公務員にさせたがった。僕は素直に従った。なのに伴侶が父親の望む人間じゃない。」
 自嘲気味に笑う。
「和隆は父親の言うとおりに生きたいのか?違うだろう?」
 少し、首を傾げる。
「僕は…どうしたいのだろう」
 泣きそうに顔を歪めた。