第十話  秘密なこと
「あっ…あっ…あぁ」
 南中道が一人で慌てふためいている。
 ここは行動心理研究会の新部室。部員は相変わらず二人っきり。
 仮部員は増減を繰り返して現在25人。
 つまり、仮入部の女の子は南中道か喜多邑が目当てなのだが二人は仁志に付きっきりで相手にしてもらえなくて辞めていくパターン。
 女子の間では仁志をはさんでの三角関係を噂していた。


「先生」
 仁志の身体が異常に反応した。
 南中道は気になってはいたが言わないようにしていた。
「南中道、先に部室行っててもらっていいかな?」
 明らかに避けていた。
「やっぱり、ダメですか?」
 仁志は男達の行動を分析していた。
 南中道は今、揺れている。仁志が振り向きさえしなければ喜多邑に傾いていくはずだ。
 喜多邑…尋之は初めから南中道だけを見ていた。
 尋胤も尋之と兄弟だけあって一途だ。
 仁志は前から気付いていた、好意を抱かれていることを。
 そして仁志は…
「なぁ、南中道。ふたりの人に好意を持たれて選ぶことが出来ないときは何と回答する?」
「僕を選んでください」
 仁志は苦笑した。
「違うよ、一般論」
 すると少しだけ首を傾げて手を打つ。
「夢に現れた人を選びます」
「南中道の夢に僕は現れたのかな?」
 すると一瞬驚いた表情をしたがすぐに切なそうな顔になった。
「尋之が…」
 自分で自分の首を絞めたらしい。
「毎晩東埜が夢に現れて愛してるって囁くんだ、あの日のままに…。」
 仁志が前に進めないのは東埜の呪縛にかかっているからだ、南中道はそう判断した。
「先生、選ばないでいいです、喜多邑のお兄さんとも僕とも付き合いませんか?しかも秘密に。喜多邑のお兄さんには申し訳ないですけど、遊びでいいんです。だって男同士なんだから。本気にならなくていいです。だったら僕も喜多邑とも付き合えます。先生も東埜さんを待つことができるでしょう?…ゆっくり考えてみてください。」

「相手が、同じ男子なんだ…そっか…彼は君のことなんて呼ぶ?」
 仁志が部室に着いたとき、一足先に戻っていた南中道は生徒の恋愛相談を受けていた。
「…名前で…」
「君は?」
「苗字です」
「じゃあまず君がその彼を名前で呼んでみてごらん、こんな風に…ねぇ、和隆先生?」
 仁志の心臓が大きく鳴った。
「え?あ、そうだな、真人。」
 男子生徒が真っ赤な顔で立ち上がった。
「分かりました、ありがとうございます…先輩、頑張ってください。」
 勢いよく部室を後にした。
「彼、誤解して行ってしまいました。明日には噂になっているかもしれません。既成事実をつくりませんか?」
 仁志は、南中道の誘惑に、勝てるのか?