第十三話  それぞれの…
「南中道」
「先生」
 放課後。部室で二人っきりになった仁志と南中道は互いの思惑を胸にしていた。
「なんだ?」
 同時に声を発した二人はまず仁志が道を譲った。
「人間の男が男に欲情するときの心理を知りたいのですが…」
 仁志は冷静に回答した。
「欲求不満」
 呆然と仁志の顔を見返す。
「もしくは…」
 不服そうな顔で見つめ返した南中道に注釈をつける。
「相手の気持ちが見えたとき、そうなる」
 少し驚いた顔で仁志を見る。
「先生には見えるんですか?」
 ニッコリ笑うと
「いや、好きな人の気持ちは見えない」
と、答えた。
「南中道の初恋は何歳だった?」
 南中道は考える。
「好意だけなら四歳です。本気で欲しいと願ったのは…つい最近です。」
「つい最近…って喜多邑だろう?二人の様子がニ〜三日変だ。」
 仁志はそうであることを願った。これ以上人の道を踏み外したくなかった。自分は南中道と生きて行く勇気はない。
 南中道の頭が動いた。上下にゆっくり。
「なん…」
 無意識に声が出ていた。
「好奇心で尋之とセックスしました。でも責任を取りたいって思ったんです。」
 はにかむように少しだけ頬を染めて言う南中道に嫉妬心を覚えた。
「恋愛に関して言えば責任なんて誰にもないよ」
 仁志は自分に言い聞かせていた。
 もしも、東埜が迎えに来たとき南中道を見たら何と言うのか…尋カズを見て何と言うのか…。
「先生…僕は、お好み焼きの山芋と同じ扱いでいいんですよ?ただのつなぎ。僕だって本命は尋之なんですから、先生は恋人を想っていていいんです。」
つ…
 知らずに涙がこぼれていた。
 忘れなくていい…綺麗に思い出にして時を重ねていけばいい。
「越えるのはなかなか難しいですよね…」
 仁志は南中道の言葉を素直に受け止めていた。



「まこ…とっ、あの、さぁ…」
 南中道に正常位で組み敷かれ、両腕を南中道の首に回してしがみついたまま喘ぎながら名を呼ぶ。
「ごめ…ん、あと…」
 南中道は尋之の願いを叶えてやらなかった。
 南中道に身体を預けながらセックスに溺れていることに少し罪悪感を覚えた。
「まことぉ…」
 両腕に更に力を込めしがみついた。
「おねが…、中…出して…」
 尋之が南中道とセックスしたと実感するのは、アナルから溢れる南中道の精子。
 中も外も身体全部を犯されたような気になる。
 しかし南中道は必ず尋之から引き抜き、達する。小さく体を震わせている様は絵になる…と思う。
「まこと…綺麗…」
 すぅ…
っと眠りに落ちた。


 すっかり日が落ちて暗くなった部室に、南中道の膝枕で寝ている尋之はゆっくり覚醒した。
「起きた」
 南中道が笑う。
「暫く、止めないか?」
 止めるのは付き合うこと?でも初めから身体しか繋いでいない…。
「お前のさ、全部が欲しい。だからセックスは止めよう。」
「カズくんは?諦めるのか?」
 尋之には複雑だ。
「先生とも、付き合ってみたいって思うようになったんだ。ただ見ているだけじゃなくて、人間対人間で付き合ってみたい。我侭言ってごめん。だけど尋之のこともちゃんと考えて…その…大切にしたいって、本気で思っている。」
「やだっ!まことは渡さない…」
 尋之の表情が、ふっと変わった。
「なーんてね、冗談だってば。」
 南中道はちゃんと見ていた、尋之の心の中を。