第十七話  放課後
「喜多邑、南中道!」
 廊下で仁志に呼び止められ、二人は動揺した。
「放課後部室に来い」
 いつもいっているのにな―と思ったが口にしなかった。
 何事かと囁き合う二人が恋人同士になったことは気付いていた仁志だが、本人の口から聞くまでは信じられなかった。

「部活動終了後速やかに退室。守ってないだろう?鍵、作ったな?」
 がさごそとポケットから合鍵を取り出した。
「管理者である僕の問題になる。他の部員の出席率を上げろ。でなければ解散。―ここはラブホテルじゃないんだからな。」
 ビクンッ
 同時に二人の肩が跳ねた。
 ―決まりだな
 仁志は絶望感に襲われた。
「せんせーだって毎日兄貴としてるじゃないか」
「そういう問題じゃない!」
「オレが真人といるのがいやなんだ?でもオレだってやだよ、カズくんが真人とイチャイチャするとこ見たくない」
 あからさまに嫌な顔をした南中道。
「先生、部室はダメなんですよね?」
「校内はダメ」
「えっー!」
「全く、学校を何だと思っているんだか…」
 尋之が思案顔で暫く視線をさまよわせていたが不意にとんでもない発言をした。
「じゃあ、先生のマンション。だめ?」
「駄目に…」
 決まっていると言いかけて逡巡する。
「いや…ちょっと、考えさせて欲しい」
 生徒が教師のマンションに出入りするのはまずいだろう。しかし尋胤が借りてくれれば、どうだろう?
 ―で?自分はそこで何をするつもりなんだ?―
 自問自答する。
「やっぱり駄目だ」
 尋之の落胆が視界に入ったが、南中道の反応は特に無い。
「先生。ちゃんと東埜さんのこと調べたんですか?就職先に問い合わせるとか、実家に確認するとか。」
「それが…」
 仁志は東埜の実家を知らなかった。
「それなら大学で調べたらいいじゃないですか。先生抜けてます。」
「…部室の鍵、返せ。」
「それとこれとは話が違います。…学校に手紙を書いてください。尋之と二人で調べます。だから…」
「ここを使うのか?」
「許可が要るようなので。」
「う…」
 許可とかの問題じゃないといえないところが情けなかった。
「それと、先日の話ですが三月一杯で教師を辞めるというのは無理のようです。先方に空きがありませんから。」
「尋胤はそんなこと言っていなかっ…」
 はめられたことに気付いた。
 尋胤の勤める会社の研究室は南中道の母方の祖父の系列企業らしい…とつい先日名簿を見て気付いた仁志だった。
「と言う事で。部活は週に3回、月水金。女子生徒に出席の声を掛ける。随時部員を募集する。…まだ恋愛相談は受けていいですよね?あれは水曜日にしますか?それと、火か木の部室使用は可能ですか?研究したいことがあるので。」
「蟻か?」
「はい」
 満面の笑みで言われた。
「共同研究で喜多邑も参加します。先生が一緒に参加してくださったらもっと良いのですが。」
「えーっ、3Pはやだな」
 痛いと大きな声で叫んでいる尋之はとりあえず放置して。
「それでは火曜に部室の使用許可をください。木曜は調査にあたります。」
 木曜は仁志のために使うから、火曜は尋之と過ごすと宣言され仁志は了承するしかなかった。