南中道の志望校は東京のAとSの生物学部、尋之の志望校は東京のSと地元のIで法学部。
「絶対無理だって」と言いながらも成績は二人ともそれなりだ。
志望校に受かったら東京へ行くのだろう。
「喜多邑はなんで行動心理研究会にいるんでしょうね?」
職員室。尋之の担任が仁志の背後を通りすぎる時に投げ掛けた言葉だ
「犯罪心理を研究すると言っています」
「犯罪ねぇ…」
尋之は尋胤と似たような進路を取りたくないと言っていた。
しかし皮肉なことに最愛の人は同じ道を選んだ。
進路は適性で仁志とは関係ないと言いながらも南中道は同じ大学を志望していた。
仁志は考えていた。
今、東埜が現れたら誰を選ぶのか。
尋胤は身体の相性が良い。
でも頭の中では南中道を考えている。
なのに好きだという気持ちはやはり東埜の上にある。
大学へ行ってみよう―やっと決意した。
「三年になったら辞めるんでしょうか?」
尋之の担任は何かを気にしているようだ。
「彼はしっかりしていますから」
「来年も私が担任になるんです、私の実績に傷が付くような行いや浪人なんて困るんです」
仁志はなぜだか何も言い返す気になれなかった。
「…彼の志望校は学部が違いますが私の母校です。今度の水曜日、法学部の教授に会ってきます」
教師にも有休がある。それを使って行ってこようと思っていた。
「研修の名目にしたらいいじゃないですか?仁志先生は真面目ですね」
なんだか仁志は馬鹿にされたような気がしてならなかった。
「お久しぶりです、大変ご無沙汰しました」
社会科の選択教科は法律学を選択していた仁志は法学部の教授を知っていた。
「仁志君じゃないか、珍しいね」
世間話をしながらさりげなく話題を切り替えた。
「教授、以前在籍していた生徒の実家を調べるのはどうしたら…」
その時、仁志の目の前に幻が見えた。
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