「よっ」
そう言って男は手を上げた…が、すぐにばつが悪そうに頭を掻いた。
「生きて、いたんだ」
「会っていきなりな挨拶だな」
しかし表情は笑っていた。
仁志はくるりと踵を返した。
どんな顔をしていたらいいのか分からなかった。
背中を向けたまま、俯いたままの姿勢で小さく応えた。
「…死んだと、思っていた…」
「うん。それを望んだからな。可愛い彼女、出来たか?」
「好きな…男が出来た」
息を飲む音がした、小さく砂利が音を立てた。
「ちゃんと三十になったら迎えに行く気ではいたさ、だけどそれまでは何があっても和隆が動かない限り自分からアクションをするつもりはなかった。でも見つけて欲しいと思っていたんだろうな、こんなところでコソコソしているんだから。」
確かに東埜は最後の逢瀬でそんなことを言っていた。
「…本当に、泣いて、生きて行くのを止めようというくらい辛くて、だけど諦められなくて、確かめるのは怖くて…」
振り返り東埜の顔を確かめ、手を触れようと指先をほんの少しだけ動かそうとしたその時だった。
「先生?」
背後から声がした。
「南中道…」
振り返らずともわかる、愛しい少年の声。
隣に恋人の気配も感じられた。
「芳、僕の教え子達だ。教師になったんだ」
「先生、東埜さんなんですか?」
仁志は東埜の隣に立ち、振り返った。
「そうだよ。僕がずっと待ち続けた人だ」
南中道の瞳を真っ直ぐに見た仁志は、東埜をそう、紹介した。 |