第二十話  とまどい
「和隆は待っててくれるとタカをくくっていた」
 東埜はさみしげな瞳を仁志に向けた。
「待っていたよ、飛行機が落ちた後も、就職してからも…なんでこんなところにいるんだろう…」
 言ったもののその胸に飛び込むことが出来ないでいた。原因は南中道なのか仁志自身なのか…。
「二人きりで話しがしたい」
と言われてホテルに来てしまったのに何の不信も違和感も抱かないのに。
「和隆…欲しい…駄目か?こんな俺はお前の恋人失格か?」
 恋人はあなただけ…その言葉が出せない。
 強引に抱き寄せられる。
 抵抗はしなかった。
 嫌悪はなかった。
 あごをとらえられキスをした。
 …尋胤は怒るかな…なんて考えていた。
 最後まで南中道のことは無理矢理脳裏から追い出した。
 …わからない、誰の手を取ったらいいのかわからない…
 なのに身体は誰にでも委ねてしまう浅ましさを仁志自身が嫌悪に感じていた。

「尋胤」
 明け方近く、タクシーで自宅アパートまで帰り着いた仁志は玄関ドアの前で腕組みをして立つ人影を見て呟いた。
 ゆっくりと歩み寄る。
「東埜さん、見付けちゃったのか」
 瞼が腫れていた。
「知って、いたのか?」
 首を左右に振る。
「きっと、自分が同じ立場なら同じことをする。お前の前から消えて見守る。お前を幸せにしたいから身を引くんだ」
言うと背を向けた。
「ヒデが帰るなり血相を変えて飛んできたよ」
 仁志は動けなかった。
「こんな時間に帰ってくるということは寝たんだよな?もう南中道君のことで悩まなくていいなら僕の役目は終りだ」
「尋胤の気持ちはどうなんだよ?どうしてみんな直ぐに僕の前から消えようとするんだよ?芳にしたって南中道にしたって…尋胤だってそうだ。どうして僕を一人にすることが幸せなんだ?隣に、いて欲しいのに。」
「それは僕じゃないだろう?」
「分からない…」
 仁志の瞳から涙があふれ出た。
 尋胤は振り返り、慌てて仁志のそばに駆け寄った。
「わかったから…とりあえず部屋に入ろう?」
 仁志は思った。
 さっきまでホテルで東埜と一緒にいたのに、もう尋胤と部屋に入ろうとしている。やっぱり節操が無い。
「誰を選びたいのか分からないんだ…尋胤を含めて…」
 尋胤は思い切り仁志の身体を抱きしめた。