「ちゃんと就職はしたんだ。だけどアメリカへ行って和隆と離れ離れになる決心がつかなかった。なのにお前は平気な顔で見送りに行くなんて言う。何度途中で辞めたいと言いたかったか…だけど言い出せないまま時間だけが過ぎた。会社へ行って研修行って、配属されて…アホらしくなった。無理して和隆に会わないで別の人間にとられたらどうする…色々考えて渡米する日に逃げ出したんだ。そんなときあの飛行機事故だ。会わす顔が無くて更に会えない状況に追い込まれた。だけど見守っていたい、なんて身勝手な思いから和隆の実家の近所でバイトしていた。和隆が教師になったのを見届けて大学の生協に就職した。ここならいつか和隆が気付いてくれるだろう…ってさ。」
仁志は尋胤を部屋に招きいれたものの、その先どうしたらいいのか分からず延々と東埜の話を続けていた。
「和隆、そんな話、僕はどうだっていいんだけど。」
「ごめん」
「お前はやっぱり教師には向いていない。このまま続けていたら尋之みたいな奴がお前のこと勝手気ままに扱いだすに決まっている。」
「僕はどうしたらいいかわからない」
尋胤は最悪の答えをだした。
「南中道くんに抱かれたらいい。それでわかるだろう?」
南中道に抱かれるということは教職を退くこと。
「就職先なら探してやる、親父さんも納得すればいいんだろう?」
仁志は頭を左右に大きく振った。
「ダメだ」
青年の未来を仁志の手で摘み取ることは出来ないと、思った。
「だけどさ、恋人に再会してもまだ南中道くんのことを思い切れないってことは重症だと思うぞ。俺にする気はないんだろう?」
仁志は尋胤の目を、見た。
「芳に抱かれるとき、尋胤のことを考えていた。何て言おうかって…」
尋胤の瞳が潤む。
「それだけで、十分だ。よし、分かった。東埜さんにしておけ。お前はそれを言って欲しかったんだろう?ずっと待ち続けたんだ。それが一番いい。」
仁志はすっ…と心のカテが取れた気がした。
南中道を好きな振りをしていただけ、尋胤に甘えた振りをしていただけ、本当は東埜を待っていた…。
誰かに後押しして欲しかったのかもしれない。
「ヒデが喜ぶぞ」
いつの間にか、尋胤は玄関扉のノブに手を掛け、部屋を辞そうとしていた。
「じゃ、な…」
それだけ言って、去って行った。
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