第二十二話  嫌疑
「おはようございます」
 朝、職員室の扉を開けて最初に目が合うのは、ドアの近くに置いてある書類ロッカーを大抵毎日覗いている新人の女性教師。
「あっ、お、おはようございます。」
 慌ててロッカーを閉めると自分の席に戻っていく。
「彼女、毎朝先生が来るの待っているんです。応えてあげたらどうですか」
 最近やたらとしたしげに声をかけてくるのは尋之の担任。仁志はけだるげに答える
「彼女に興味がないですから」
 すると尋之の担任は大仰に驚いてみせた。
「彼女可愛いじゃないですか?」
「私には約束した人がいますから」
「あ、それは失礼しました」
 担任はそれ以上追求してくることはなかった。
 しかし、いつまでも結婚しなかったらこの男も不審に思うだろうか…と考えながらも仁志はなんだか背中がむず痒くなってきた。
 尋胤に押してもらった背中。
 まず最初に尋胤に電話を掛けた。「ごめん」一言だけ告げた。
 次に東埜に電話を掛けた。「まだ、待っている」と告げた。話がパタパタと進んでいって一緒に暮らすことまで決まった。
 思い出しただけで口元が緩みそうになってしまう。
 もう、他の人を必死で追いかけなくてもいいんだという安堵もあった。
 しかし仁志にもまだ疑問はあった。
 どうして東埜は嘘をついてまで、仁志の近くにいたのに現れようとしなかったのか…。

「カズくん。」
 部活の最中、尋之に呼ばれた。
「学校ではそ呼び方、止めてくれないかな。」
「だってさっきからずっと呼んでいるのに上の空だから。」
「ごめん」
「あのさ…南中道が調べてきたんだけれど、見せない方がいいって言うんだ。だけどオレは見せたほうがいいと思ったから持って来た。南中道には内緒だから。」
 強引に尋之はジャケットのポケットに定型サイズの封筒を捻じ込んだ。
 その中には、仁志が疑問に思っていた答えが入っていた。