第二十三話  嘘と現実と愛と友情
 仁志が部室に蟻の研究用プラントを持ち込んで篭りっきりになってしまって五日が過ぎた。
 授業にはちゃんと出てきた。
 職員会議にも出ている。
 ただし、部活は中止、部室の立ち入りも禁止になってしまった。
「どうしたんだろう、先生。」
 南中道が心配そうに部室のドアを見詰めていた。

 ただぼーっとしていたいだけたった。
 自分の四年間は何だったのだろうと、見詰め返したいだけだった。
 仁志は東埜に裏切られたのだ。
 東埜はちゃんと就職してアメリカへ赴任して行った。会社の手違いで予定していた飛行機に乗れず、翌日の便で日本を発った事を、仁志には伝えずに行った。
 それは飛行機事故があったからだ。
 東埜自身の気持ちが揺れていた、というのが本当のところだった。
 このまま学生気分のまま、男と付き合い続けていていいのか?歳を重ねていっても同じ気持ちでいられるのか…。
 東埜は自分に言い聞かせた。これはお互いを見詰めなおすチャンスだと。
 アメリカで、東埜は新しい恋を見つけた。
「二歳になる、女の子…かぁ…」
 東埜には碧い目の女性が既に隣にいたのだった。
「ふぅ…」
 悩んでいても仕方が無い、そう悟った仁志は、今夜東埜に全てを聞こうと決意したのだった。

「ばれたか…」
 東埜は別に悪びれることもなく、そっけなく呟いた。
「仕事の関係で半年だけ、大学に世話になっている。終わったらまたアメリカに帰る。その間だけ、和隆に罪滅ぼしをしようかと思ったんだ。まさか和隆が待っているとは思わなかった。」
 仁志は大きく、ゆっくりと首を左右に振った。
「ううん、待ってない。僕は好きな人がいるし、セフレもいる。少子化が心配だけれども、高校の教師ならなんとか定年までなら大丈夫だろうし、結婚しないならひとりで食っていける。まぁ、いずれ両親の面倒をみることになったときに、女手が無いのが不安だけど、そのときはヘルパーでも雇うよ。」
 仁志には意外だった。
 あまりにも自分の感情が波立たずに平然としていたからだった。
 終わりってこんな感じなんだ。
 仁志は涙一つ、零れなかった。