第二十五話  転換
「先生」
 仁志が振り返るとそこには満面の笑みで尋之が立っていた。
「やっと教師として接してくれる気になったんだな」
「うん。真人がさ、同じ大学へ行こうって誘ってくれた。先生の母校じゃないけどね。」
 仁志はショックだった。南中道はずっと自分を慕ってくれると信じていたからだ。
「東京へ、行くんだ」
 二人で、暮らすのか?そんなことを考えていた。
「南中道は理系だろ?」
「それがさ、経済に行くって言い出したんだ。」
 今度は軽い目眩を感じた。
「理系は出世出来ないからって言うんだ。」
 尋之は自分の言いたいことを伝えるとさっさと消えた。少しでも長く南中道と一緒にいたいらしい。
 仁志は自分に問い掛けた、そんな風に尋胤を愛せるかどうかを…。
「あの…」
 不意に背後からか細い声が聞こえた。
「南中道先輩がつかまらないので顧問に言えば良いかなと思って…。行動心理研究会に入部したいんですけど。」
 彼は一年生の南城祐樹。先月まで吹奏楽部でフルートを吹いていたがパート争いに負け辞めてきたのだ
「南城君も蟻の研究?」
「は?蟻?僕は占いに興味があるのですが…」
 占い…ちょっと仁志はうんざりした。
 でも、少しずつ部員が増えている、もっと仕事に熱を入れようと心に誓った。