第三十話  小太郎
「ちゃんと帰って来てね」
 一枝は小太郎のことを買いかぶっていた…

「ちょっといい?」
 クラスが違ったので同じ仁志という苗字の同級生がいることに南城は気付かなかった。
 南中道から頼まれて初めて仁志に妹がいることを知った。
「同好会の人じゃない、あなた。絶対違うんだから!」
 南城はいきなり言われてなんのことだかさっぱりわからない。
「お兄ちゃんはもうすぐ家に戻ります!だからつきまとわないで!」
「なんかわからないけど、小太郎の特徴を教えて」
「は?」
「南中道先輩が小太郎らしい犬を見つけたからはっきりした特徴を教えてくれって。先生は愛犬とは名ばかりのエセ飼い主だって怒ってたよ」
「本当に?小太郎、見つかったの?」
 南城は南中道がどうして自分で来なかったのかを悟った。
 例の仁志の噂を気にしているのだろう。なんと言っても、『仁志先生と喜多邑先輩の間で揺れる南中道先輩』だから。
「小太郎は首輪代わりにお兄ちゃんのベルトを使っていたの、高校の時に使っていたベルトをリサイクルして…いたけど、逃げたときは外していたわ。他には…お兄ちゃんがキャベツをあげると食べるのに、他の人だと絶対に食べない…とか…。」
 キャベツか…南城は使えるか、考えてみた。
「外した首輪を借りられるかな?」
こくり
 一枝は頷いた。
「ごめんなさい、さっきは失礼なこと言って。てっきりお兄ちゃんの噂を聞きつけてきたのかと思って…だってお兄ちゃんの恋人って本当に男の人だったから。私、そんなの嫌だからその人に言ってやったの、お兄ちゃんを変な道に誘うなって。」
 南城は誰も知らない秘密をゲットした。