第三十一話  小太郎2
「行きますよ」
 南中道は仁志を連れ、南城の情報を携えて隣町に住む父方の親戚宅へ出掛けた。
 なぜか喜多邑には言えずにいた。
「キャベツか…忘れていた。」
 仁志はあの日から再びぼんやりとしている。
「僕は先生と東埜さんでは幸せになれないと思います。喜多邑のお兄さんに…」
「南中道に指図される筋合いはない。」
 そういうとプイと横を向いた。
 誰でもいいと思ったのに、尋胤ではダメだった。
 一昨日の夜、尋胤にどうしても恋愛感情は抱けないと伝えた。だけどそれでもいい、和隆の身体だけが目当てじゃだめかと問われ否としか返答できなかった。
 初めにそう言ったのは仁志だからだ。
「その代わり好きな人が出来たら言ってくれ、すぐに手を引くから」
 そう言われてもはいそうですかとは言えない。
「尋胤さんとは毎日会っているんですか?」
 南中道が正面を向いたまま表情を変えずに問う。
「だから、南中道には言いたくない。」
 初めて南中道の表情が揺れた。
「嫌って、下さい。僕は尋胤さんや東埜さんに比べたら恋なんて呼べない、つまらない感情だったんです。僕は手を引いた方が…」
「待って…南中道、まだ…」
 仁志は南中道の腕を取った。
「分かっているだろう?南中道が好きなんだ。君がうんと言ってくれるなら全て捨てる、君が卒業するまでに二人で暮らせるように職を探して…」
 南中道は仁志の手をふりほどいた。
「失望させないで下さい。」
 泣き出しそうな瞳が仁志を見つめる。
「先生はいつだって僕たちの手本でいてください」
「冗談じゃない!じゃあなにか?恋をしても黙って身を退けと?」
 南中道は首を左右に振りうつ向いた。
「僕になんか夢中になったらダメです。研究者になるのが夢なんですよね?ちゃんと前を見て将来を見つめて下さい。そのために東埜さんは結婚して先生から離れた。尋胤さんは先生をバックアップするつもりでいます。」
 仁志は初めて知った。そんなに自分は皆から守られていたのかと。
「小太郎を見つけてお父さんに会って下さい。そして自分の道を見つけて下さい。」
 南中道の親戚の家が見えた。