第三十二話  心の整理
「ああっ…」
 今夜はなぜか異常に尋胤を感じる。
「もっと…」
 深くに突き刺さる尋胤の雄を身体の内側に記憶しようと懸命に身をよじる。
「もっと…何?」
「奥までえぐってもいい…」
 あまりの淫らさに尋胤は喉を鳴らした。
「もう、会うのも止めよう」
 情事の後のセリフとしては寂しい一言を、尋胤が吐いた。
「会ったら求めてしまう。オレはキライになって別れるんじゃないんだから。かといって東埜さんみたいに逃げ道を作る気もない。和隆の幸せを黙って見ているのはつらい。」
「幸せにはならないよ。あの子には嫌われているから。それに喜多邑家の息子を二人とも不幸になんか出来ない。」
 それでも仁志は自分の気持ちに素直だった、以前の自分に戻りたいと決意したのだ。

「良かった、間に合った。」
 東埜はまだ大学にいた。あと一週間でアメリカに帰るところだった。
「芳のこと、恨んでなんかないから。芳が選んだ道は間違っていない、だからちゃんと奥さんに芳の子供を産んでもらうんだぞ。同情じゃないからって言うんだぞ。」
 東埜は小さく「あいつ、やっぱりおしゃべりだな」とつぶやいた。
「そうなんだ、おしゃべりでお節介で何考えてるかわからない奴なんだ。そして僕が今、好きな奴なんだ」
「気付いてた、お前はすぐ顔に出る」
 東埜は笑った。
「大丈夫だ、和隆は愛されている。」
 仁志が、笑った。
「和隆。」
 別れ際、東埜が小さく、言った。
「責任、取ってやれなくてごめん。お前をこんな風にしたのは俺なのにな。…妹さんが来た。思い切りひっぱたかれたよ、お兄ちゃんの未来を返せだとさ。…本当だよな…ごめん…」
 仁志は黙って頷いた。


「真人が言った?」
「いや、僕の片想いだ。片思いでいたいんだ。」
 仁志は尋之に南中道が好きだと伝えた。
 自分の気持ちに正直に生きようと決めたから。例え傷ついても愛する気持ちは止められない。
「真人は一回でもカズくんとセックスしたら離れられなくなると思う。オレを捨てないのはセックスしたからだよ。恥も外分もなく、真人に抱かれて乱れるからだよ。女みたいに足を開いて、もっともっととねだるんだ。真人は快楽に溺れているだけだ。」
 尋之は嘘をつく。自分に分が悪いと判断して嘘をついた。
「気持ちもないのに身体を重ねるなんて、あの子には出来ない。そんな子だよ、南中道は。」
 仁志は南中道の名を呼ぶことが出来なくなっていた。

「宜しくお願いします。」
 翌朝、仁志は高校の校長室にいた。
 新たな第一歩を踏み出す勇気…。