第三十四話  優しく
「真人?」
 南中道は異常なほど仁志に冷たく接した。
 小太郎のことは全て南条に頼んでいた。
「カズくん、なんだか可哀想だ…って、ごめん…」
「ううん」
 南中道は力無く首を左右に振る。
「先生、休職願いを出したんだ。大学院に行くらしい。」
 南中道は尋之も知らなかったことを知っていた。多分尋胤も、同僚の教師たちも知らない。
「先生から…聞いた」
 尋之から視線を外す。
「笑っちゃうだろ?僕らが受験する大学に行くっていうんだ…だから教えてやらない」
「何を教えてやらないんだ?」
「僕たちが本当に受験するとこ」
「そんなの担任に聞けばすぐわかるし…母親から兄貴にバレてるし…」
「うん。だけど僕からは絶対に教えてやらない」
「真人、カズくんのこと大好きなんだな…嬉しくて仕方ないって顔してる…羨ましいな…」
「尋之!今度またそんなこと言ったら本当に別れてやる!僕は、尋之と幸せになるんだからなっ」
 尋之は少し伏し目がちに笑っただけだった。
 意地で付き合っているみたいでなんともやるせない…。
「分かった…でもカズくんには優しくしてやらないと可哀想だ。ただでさえ、毎日の南条攻撃で凹んでいるからな。」
 南中道は南条が仁志に猛アタックしていることを知っている。
「優しくなんかしてやらない」
 ニヤリ、南中道が笑う。
「思い切りいじめてやるんだ。」
 三度尋之はため息をついた。