第三十八話  快楽
「仁志くんって初体験いつ?」
 高校一年の夏休み明け、陽に焼けた女生徒が突然聞いてきて仁志は戸惑った。
「初体験…って性交のこと?」
「せいこう?セックスだってば!」
 女生徒はあっけらかんと口走る。
「…まだ…」
「あ、どーてー?」
 童貞…いやな響きだ。だけど事実だから仕方ないと腹を括る。
「うん」
「よかったねー、ヨウコ、まだ童貞だってさ!」
 そのヨウコと呼ばれた女生徒が仁志の唯一の女性関係で初めてのセックスの相手だ。
 付き合うようになって暫くした頃。「…今日は、平気だから…」その意味が分からなくて三分くらい考えた。少ない知識から意味を解釈した。
 誰もいなくなった教室で彼女と初めてセックスをした。

「初めての時は無我夢中だったからよく覚えていないんだ。彼女が持っていたコンドームの付け方が良く分からなくて兎に角ペニスに被せれば良いんだろうって奥まで入れている間に一回元気がなくなっちゃったしね。その娘とはそれっきり。次に付き合った娘とはプラトニックだった。でも芳とは最初のデートでセックスしちゃったんだ。凄く気持ち良くって、受け入れることがこんなに気持ち良いのかって、はまった気がする。ただ気持ち良くなりたいだけでセックスしていた。好きな人とセックスするって気持ちいいことなんだと思った。最初の娘とはなりゆきで付き合ったから。尋胤とのセックスは芳以上に気持ちよかったからちょっと錯覚に陥った。」
 尋胤は頭を抱えたい気分だ。自分との時間は何だったのか、全く無意味なのか…
「今まで、求められたことはあるけど、拒まれたのは初めてなんだ、だから分からないことだらけで…」
 尋胤はやっと仁志の気持ちを理解した。
 確か尋之が言っていた「カズ君は恋愛オンチなんだ」と。それはそういうことだったのか…。
「南中道くんは和隆よりずっと恋愛に関しては上級者ってことだな…」
 南中道に直接会って話そう、尋胤は思った。