第四十二話  くるり
「部室はダメだと言っただろう。」
 仁志は大きくため息をつきながら部室の入り口に立った。
「公私をきちんと分けられないのだったら、部活動は禁止するからな。…どっちにしたってこの部活、部員が三人しかいないんだから。」
 仁志が来るまで、部室の隅でキスをしていた。本当は身体を繋ぎたいのだが、仁志の手前もあるし、南城が来るということもある。
「今は実質二人だけどね。南城は自分の本当の気持ちに気付いていなかったって言う間抜けな奴だし。」
 尋之が苦笑しながら呟いた。
「南城くん、もう辞めちゃうのかな?」
 南中道は南城にいろいろ頼み事をしたりしたことを思い出した。
「ちょっと様子を見てくる」
仁志と尋之に向かってそう言うとくるりと踵を返して部室を飛び出した。


「なん…」
 渡り廊下で南城を見付けた南中道は声を掛けようとして慌てて止めた。背後に人影を感じたからだ。
「どうして?」
 漫画でよくある場面。告白シーンというやつだろう、はじめてみた。自分には縁がないなぁ…と思いながら。
 南城が一瞬、口を開いたのだが池の鯉のように二〜三度パクパクしたかと思うと、深呼吸をして、言った。
「あの噂、本当だったよ。君のお兄さんは誰にでも身体を委ねるんだ。」
 南中道ははじめて自分に背を向けている女生徒が仁志の妹の一枝だと気付いた。
「うちの部員とは全員、セックスしてんだよ、あの先生。」
 危なく、声を挙げそうになって慌てて両手で押さえた。
「教育委員会に訴えたら一発でクビだね。」
 南中道は二人に背を向けてよろよろと歩き出した。
 ―先生は南城とも寝たの?誰でも、いいの?―
「自分が傷つかなければ、どんな手段でも手に入れたい。それが僕なんです。」
 南中道は、背後から突然抱きしめられた。
「先輩が見てるって気付いたから。…先輩が好きです。」
 南中道はパニックしていた。
「先輩には先生の話を持ち出せば一発ですからね。」
「ちょっと、待って…」
「喜多邑先輩に気付かれるとは思わなかったなぁ。」
 南城はひょいと南中道を肩に担ぎ上げるとすたすたと歩き出した。
「何するんだよっ」
 南中道は両足で反動をつけ、地面に向けて体重を移動させた。その勢いで南城は前のめりに転びそうになったので慌てて体勢を整えた。
 南中道が着地し、南城を振り返った。
「僕は要らないものは排除する。要るものはちゃんと手に入れる。南城はまだ、ただの後輩だ。大人しく僕の言うことを聞いていればいい。」
 そう言うとにっこり微笑んだ。