第四十三話  落ちる
「あっあっ」
「イヤだ…あ」
 マンションの一室。隣合う部屋で二組の同性カップルが性行為をしている。
 場所は尋胤のマンション。
 寝室では尋胤と仁志、リビングで尋之と南中道。
「尋之ばかり、ずるい…」
 仁志は素直に訴えたが尋胤に拒否された。
「オレの部屋を提供しているんだからオレの相手してよ」
 尋胤が甘えるのでつい情に流されてしまう。
「先生、次の日曜デートしましょう、セックス付きで。」
 普通、生徒に言われたら拒絶するのが教師なのに仁志は感情に忠実だ。
「いいのか?」
 少女漫画のヒーローのようなキラキラした瞳で問う。
 喜多邑兄弟は南中道の提案を飲んだのだから仕方がない…と諦める。
 歪んだ関係は始まったばかりだった。

 二人が向かった先は昆虫博物館。南中道は一度仁志と二人きりで来てみたいと思っていた。尋之はありではなく人間の心理を研究している。だから昆虫には興味がない。
「先生、あっちです!」
 およそデートとは呼べない内容だが、二人が楽しんだのだからそれはそれでいい、ただし喜多邑兄弟ががっかりする行為もしっかり行っていた。
 昆虫博物館で資料をしこたま仕入れ、それを抱えて仁志のマンションへ向かった。
 まとめ始めたものの30分で仁志が耐えきれなくなった。
「…真人、その…作業は後にしないか?」
 南中道は顔を上げた。
「先生が僕のことを名前で呼ぶときは先生と生徒の関係ではなく恋人同士なんですね?」
 にっこり微笑まれて動揺を見せた。
「和隆、その場で服を全て脱いで裸を見せて。」
 仁志は驚いた。しかし言われるまま動いた。
「僕がなにもしていないのに和隆のペニス、完勃ちだね。」
 そっと見下ろし、南中道の言う通りだと確認した。
「夕べも尋胤さんに抱かれたのに?僕に抱かれるのが待ち遠しいの?」
 言葉で攻められたことのない仁志は戸惑い、傷つく。
「ベッドで足を大きく開いて、自分で慰めてみて。」
 一瞬、怒りがこみ上げたが言う通りにした、南中道は正しい、仁志の身体は一人では我慢出来なくなっていた…。全ては東埜に原因がある。