第四十四話  落ちた
ビクンッ
 精の解放とともに仁志の身体が跳ねた。
「僕は、尋胤さんになんか嫉妬しない…和隆の心を今も独占して放さない、東埜さんが憎い…」
「あうっ」
 今イッたばかりのペニスを指で弾かれた。
「何を考えて、自慰をした?」
 仁志は答えられない。
「悪い子にはおしおきだよ?」
 言うと南中道は仁志に目隠しをした。
「両手は自由なんだから取っても良いけどね。」
 南中道がどんな表情で話しているのか、想像もつかない。
 仁志ははじめて南中道の狂気を悟った。
 強引に重ねられた唇、無理やり押し込まれた舌に口腔を犯される。
「うぅっ…」
 恐怖が仁志を襲う。なのに目隠しを外すことが出来ないのは、仁志にも同様の狂気が潜んでいるのだろうか?
 胸に痛みを感じる。
「あうっ」
 南中道は胸の突起を抓る様に乱暴に扱った。
「痛いっ」
 グイッと更に力がこもった。
「だけどしっかり乳首は勃っているけど?」
 含み笑いの声が下から聞こえる。
 今度は両脚を胸の位置まで押し付けられ、尻の中心部分の窄まりに棒状の冷たいものを差し込まれて思わず仰け反った。しかしすぐにそれは溶け始め体温に馴染んでいた。多分、リップクリームではないだろうか?
「いやっ、ダメだ…」
「良い、でしょ?」
 南中道は仁志の中を指でかき回した。室内には仁志の呻きとも喘ぎともつかない声と、下半身から漏れる水音だけが延々と続いていた。
「真人…お願いだ…挿れて…」
 南中道の身体が離れ位置を変えた。だから仁志は期待して待っていた。
 圧倒的な肉感を持った物が仁志の体内に埋め込まれた。
「ああっ…」
 仁志の身体は激しく揺すぶられた。あられもない声が途切れることなく仁志の口から零れ出た。
「真人…顔、見たい…」
 言いながら目隠しを外した。
「ごめん…さっきは芳の手を思い出しながら自慰をした。だって真人の手は分からないから…」
「そんなに、東埜さんとの約束を大事にしているの?僕なんかただのプライドでセックスしたかっただけなんでしょう?今だって目隠ししている間中、僕の顔じゃなくて、尋胤さんじゃなく、東埜さんの顔を思い出していた、そうでしょう?どうして素直にならないんです?いい子ぶって、僕のこと好きな振りして、東埜さんに置いていかれたことをなかったことにしようとして。東埜さんじゃなかったら誰だっていいんだ。」
 そう言うと南中道は携帯電話を取り上げ、誰かに電話を掛けた。
「そう、今先生とセックスしてるから。早く。」
「やだっ、南中道、止めて、こんな…」
 南中道の動きが激しくなり、仁志の声は叫びに変わった。