第四十六話  執着
 白々と夜が明けた。
 仁志は一晩中、南中道と南城に交代で犯された。
 それが自分の意志であるかのように仁志は淡々と受け入れた。
「決まりました?」
 南中道が問う。
「…南中道を…真人を尋之から奪いたい…」
 仁志は迷わず答える。
「そんな選択肢はありません。僕は尋之を選んだのです。あなたはおまけ。それでもいいのでしょう?」
 力無く首を振る。
「イエス?ノー?」
「…イエス…」
 ニッコリ微笑むと南城を振り返った。
「暫く先生の部屋に通って毎回抱いてやってくれ。僕は尋之と会うから忙しい。」
 不満そうに少し頬を膨らまして抗議の言葉を吐こうと口を開いた。
「先輩、」
 表情を凍りつかせた仁志は南城の気持ちを察することが出来ないまま、南中道に視線を送る。
「真人、僕は…セックだけがしたいわけじゃない、今日みたいにデートしたり…」
「どうして?」
 南中道は仁志の瞳を見た。真っ直ぐに見返している。
「…あなたを…忘れるために尋之へ逃げました。僕は先生にふさわしくないし幸せにする自信もない。今更、尋之を捨てることは出来ません。彼は僕の為ならなんでもしようとする。そしてこの間言った通り、僕は二人とも…愛しています。だから、先生を幸せにしてくれる人に託したい。」
 静かに、そう告げた。
「それは、本音と受け取っていいのか?なら、僕も本当のことを言う」
 仁志はベッドが下りると浴室へ入った。身体中痛いのだけれども二人の精液でベトベトな身体では説得力がないし、自分へのケジメとして、二人の生徒の教師として、身なりだけでもきちんとしたかった。
 時間をかけて身支度をすると二人もきちんと服を着て待っていた。
 二人の前に正座するとゆっくり話始めた。
「僕は大学生のとき東埜さんと付き合っていた。いずれ生涯の伴侶となろうと、約束をした。だから彼が戻ってくるのを待った。でも彼は戻って来ない。…男を知った身体を、僕は持て余していた、だから研究と仕事に没頭するふりをした。本当に研究をしたいと思うなら大学院に行けばいい、しかるべき研究機関のある職場を選べばいい。だけど僕は腑抜けになっていて父親の言うとおりの道を選んだ。しかし…君に好きと言われて…君の言う通り、喜多邑…尋之に思い出さされたと言うのが的確な表現だろう、兎に角身体は再び男を欲し始めた。だから喜多邑の兄、尋胤と寝た。彼は身体だけの関係でいいと言ってくれたから。でも…好きなのは初めから南中道、君なんだ。黙っていたけど、君が入学してきた日から気になっていたんだ。あんな同好会に入ってくるなんて、偶然休日に会うなんて、毎週行く図書館で…君を見ていた…僕は教師失格なんだ…こんな気持ちを抱くなんて…。君が卒業するまではちゃんと教師でいるつもりだった。なのに…芳に再会した。愛されていない自分を自覚させられるなんて…惨めじゃないか…」
 仁志は一度、言葉を切った。
「尋胤さんは先生を大事にしてくれます。」
 南中道は顔を上げずに表情を見せないまま呟いた。
「尋胤には感謝している。愛せたら楽だろう…だけど人の気持ちは簡単に変えられたり操作出来たりすることは不可能なんだ」
 不意に南城が発言した。
「あの…先輩、僕はここにいても良いことはなさそうなんですけど。そんな先生の陰気臭い話、聞きたくないです。先輩ともセックスできそうな雰囲気じゃないし。」
「南城、僕は…」
 南中道は目を閉じた。
「先輩が一番先生に執着しています。突き放そうとしているけどそんなことしたら縋ってくるって言うことは、行動心理学部にいるんだから分かっていることじゃ無いですか。わざと・・・ですよね。」
 閉じていた目が開く。南中道の視線は南城の上で止まった。
「そう、だよ。何のためにやったことも無い乗馬の話や興味も無かった蟻の研究なんてしていると思った?全部、先生の気を引くためだよ。先生が、僕がいなきゃ生きていけなくなるまで、追い詰めようと考えに考えた結果だから。でもそんな必要は無かったみたいだ。先生は僕に誰よりも執着しているみたいだから。」