第四十九話  落涙
「人間、失格だな…」
 仁志は声にすることで現実を受け入れた。
 南中道と南城に何度となくイカされた。自分からねだったことに落胆していた。
 そして思い出すのは学生時代のことだった。

「ふ…うっ」
 必死で声を押し殺す。思考を停止させたら声が勝手にでるから何か考え事をしながら身体を繋ぐ。
「か…おるっ」
 耳に直接囁く。
 何度も何度も身体を繋ぐ。
 何度も何度も射精した。
「好き」
 セックスをすると必ず言った言葉。なんて残酷な言葉。
 自ら身体を繋ぎ、腰を振った。
 本当に芳が好きなのだろうか?ただ、いつもそばにいてくれるから、構ってくれるから、身体を繋ぐのではないだろうか?
「愛してる」
 芳が、微笑みながら僕にくれる言葉。
 信じていた、この言葉を信じていた。
 そして僕も芳を自分に縛り付けるためだけに「好き」と言い続けたのだろう。
 休みの日にはラブホテルで朝からずっとセックスしていた。思い切り声を出して快楽を伝えた。
「芳、好きだよ」
「和隆、愛してる」
 何度となく繰り返した言葉。だけど…それは会話じゃなかった。ただ単に相手を縛り付けるための呪文。
 新しい相手が見付かれば不要だったんだ。

「答え?」
 南中道は仁志が答えを出して来たことが意外だった。一人になり部屋の中で考え抜いたのだろう。
「ああ、そうだ」
 堂々と胸を張って答えた。
「セフレ…というヤツでいい。尋胤もそうだから。わかっている、僕を本気で愛してくれる人はいないんだ。」
 南中道は否定したかった。少なくとも尋胤は違う。そして…。
「なぜ否定ばかりするのです?愛して欲しいと縋らないのです?…僕は…先生を幸せに出来ない、逆に不幸にする。だから、」
「不幸にしてもらってかまわない。真人が最後に選ぶのが尋之でいい、今だけ真人のそばにいたい。」
「どうして…」
「やっと、わかったんだ。真人が僕を欺いていること。それくらい僕のこと気にしてくれていること…尋之から、奪えるかもしれないこと…芳を、愛していなかったこと。」
「え?」
「僕は、色情狂なんだ、きっと。」
 仁志の瞳から一滴、涙が零れた。