第五十五話  後継者
「で?朝までしたの?」
 南城は真っ赤な顔で小さく頷いた。
「兄貴も好きだな…」
 尋之は苦笑いするしかなかった。
 部室のドアが開いて南中道が入ってきた。
「尋之、先生の所に新しい機材が届いた。手伝ってくれないか?南城、明日の部活は幽霊部員を全員集めてくれ、今後の話し合いをする。…占いはやめるんだ。」
 南城がガタリと大きな音をたてて椅子から立ち上がった。
「行動心理研究会、辞めるんですか?」
 南中道は、初めて南城に向かって優しく微笑んだ。
「いや、占いだけやめるんだ。本来の研究に専念する。」


仁 志は例の理科準備室で一人、ため息をついた。
−南城くん、俺がもらったからー
 仁志の脳裏に嫌な想像が浮かぶ。
 南城を裸にして、尋胤は着衣のまま犯す姿。研究所の白衣で犯す姿。
 想像はするのに、嫌悪感はない。
 南城とどんな顔をして会ったらいいのかわからないのだ。
 俗に言う『兄弟』という関係になるのか…などと考えていた。
ガラガラ
 ドアが勢いよく開いた。
「機材は?」
 尋之は最近男っぽくなった。南中道の前では相変わらずメロメロだが。
「職員室にあるから一緒に…」
「真人から本当に手を引くのか?」
 …訂正。最近尋之は仁志に対してがさつになった。
「…それが一番いいからな。」
「それは、真人が好きだと、真人を選びたいと、そういう意味か?」
 仁志は答えなかった。答えたらきっと、本心を明かしてしまうから。南中道にできたことを仁志にできないはずはないと、心に誓ったのだから。
 尋之が言うことは正解だった。仁志は一晩考え、考えても気持ちは南中道に向いていることを思い知らされただけだった。
 東埜が帰ってきて、仁志との関係の復元を願っている。南中道はいずれ女性と結婚して跡継ぎが必要となったとき、仁志には待つ自信もなかった。なら、いまから離れてしまおう、東埜とやり直そうと考えたのだ。
 南中道は東埜の面影を持つ少年を尋胤に会わせて上手く組み合わせたらしい。
「南中道は、喜多邑を選んだんだからな。」
「いや、真人に選ぶ権利はないんだ…先生にもいつか話してくれるよ。」
 尋之は意味深な言葉を残して職員室に消えて行った。