第五十九話  一番好きな人
 尋之は愕然とした。

 相変わらず、南中道は部室を私用に使う。
 今回もデートの場所だ。
 南中道が最近デートしている相手は一人ではない。とっかえひっかえ、入れ替わり立ち代り…なのだ。
『女子はどうやら僕のことが目当てらしい』
 先日、部活動で占いをやめると宣言したにも関わらず女生徒が誰一人として退部しなかったことに不満を抱いていた南中道が気付いたことはそれだった。
『だったらその中から恋人を見つけようかと思ってさ』
 しれっとした顔で尋之に報告した。

「尋之…ラブホでもいいから…したい。」
 女生徒を散々口説いた後に南中道から誘われても尋之は嬉しくなかった。
「ずっと我慢していたんだ。尋之が一番好き…」
 塩らしく腕の中にしなだれかかってくる南中道は、らしくない。
「女の子とセックスしてもちっとも気持ちよくないんだ。心が、拒否している。」
「だけど身体は反応するんだろう?」
 南中道は俯いて小さく「だって」と言い訳を始めた。
「尋之のこと考えるんだ、いつも。」
 尋之は嘘だと分かっていても、その言葉だけで嬉しいと、思う。
 南中道が女の子とデートしたりセックスしたりするのは、全て仁志のためだと、分かっていた。
 たとえ仁志が東埜を選んでも、南中道の心はずっと仁志を追い求めるのだろう。
「尋之に入れられて揺すぶられるのが気持ちいい。」
「恥ずかしいから、いいから…」
 嬉しいけど、切ない。
「なんで?」
 南中道は無邪気に笑った。
 やっぱり、真人が一番好きだ、離したくない…尋之は小さく、心の中で誓った。