第六十話  正しい男女交際のあり方
「南中道」
 仁志は気が進まないまま、南中道に声を掛けた。
「女子部員からややこしい相談なんだが、直接回答してやってくれ。占いはもうやらないと決めたんだからな。」
 南中道は無邪気に仁志に向かって微笑んだ。胸が痛む。
「ややこしい相談とは?」
「南中道先輩の本命は誰か?だそうだ。」
 仁志は目を反らした。
「尋之と答えて結構です。…そういえば先生は逃げ道を失いましたね。尋胤さん、南城に相当入れ込んでいて大変らしいです。」
 仁志は作り笑いさえ出来なかった。
 自分の先には東埜しかない。嫌なわけではない、怖いのだ。
「なぁ、なんで女子部員がやたらと部活にでてくるようになったんだ?」
 仁志は話の矛先を変えたつもりでいた。
「部活の時に僕が独り言を言ってからですね。」
 恐る恐る、何を言ったのかを尋ねた。
「僕の子供を産んでくれる娘、いないかな?ですが?先生も言ってみたらどうですか?」
「バカ」
 弾みで南中道の頭に手を触れていた。それに気付いて慌てて手を放した。
 南中道の顔が曇る。
「すみません、僕が好きだなんて言ったから―先生は東埜さんと幸せになれると、」
「勝手なこと言うなよ―人の気も知らないで!」
「分かってます!だから―離れようとしているのに。僕はあなたを幸せに出来ないから…。」
 地獄に落ちても構わない、仁志はそう言いたかった。だけど自分を守ってくれている人々を裏切れない。
「在学中に女の子を妊娠させるような行為はするなよ」
 精一杯の言葉だった。
「不順同性交遊はいいんですか?」
「…いけないと、思う。」
 前にも聞かれたな…仁志はぼんやりと考えていた。
「だけど…」
「だけど?」
 南中道がまっすぐに仁志の目を見た。
「僕に子供が三人いたら、僕は自由になれると思う。自由になりたい。僕だって、生きがいが欲しい。」
 ポロポロ、ポロポロ、頬を涙が伝って、制服の肩を濡らしていた。