南中道の母親には、虚言癖より性癖の方が気になるようだ。
本当に真人は男にしか興味がないのか?先生も真人の相手なのか?と帰り際仁志に何度も聞いてきた。
「虚言癖」というがそんな癖はない。正しくは「虚言症」という神経症の一部だということに仁志は不安を覚えた。
南中道は、誰にも言えない悩みを抱えていたのだ。
だから、誰かに縋りたかった。
それに気付いてあげられなかった自分に、仁志は腹が立った。
まず…新しい小太郎を見つけなくては、と考えた。
「ただいま」
仁志はマンションを引き払い実家に戻った。
父親は遂に身を固める気になったのかと喜んだが、学校を辞めたことを言うと大げさにがっかりした。
「大学で助手の仕事を世話してもらった。やっぱり研究を続けたい。僕はやり遂げて死にたいんだ。中途半端なままでは存在した意味がない。」
父親は自分の考えとは違う人間を受け入れない。当然仁志は否定され今はほぼ無視状態だ。
「それから」
躊躇っていたら更に先延ばしになる。
「生徒と、恋愛した。だから辞めた。相手が卒業するまではもう会わない。だけど…卒業したら迎えに行く。あと…」
肝心なことはここから先だ。
「勘当してくれていい、相手は…男子生徒だから。」
「知っている。おまえがホモセクシャルなのは知っている。前に東埜と言う男がきておまえを自由にしてくれと騒いだからな。だから堅実な仕事をしてくれと言った。それが仇になるとはな…。」
仁志は初めて父親の背中が小さくなったと思った。 |