大学の助手の仕事というのは父親を安心させる嘘だ。
とりあえず父親が納得するのが先決…と考えたとき仁志は気付いた。
南中道が嘘をつくのは同じ理由なのではないかと。
両親には心配をかけたくない、自分はちゃんとすべて引き受ける覚悟はあると、そう言いたかったのではないだろうか?
今更ながらに仁志は自分を嘲った。ずっと、南中道の何を見ていたのだろう?
南中道に限らず、尋胤にしたって東埜にしたってそうだ。
仁志には彼らの本当の顔を見たことなど無かったのではないか?
いつも守られてばかりで、いざ何か始めようと立ち上がっても何をしたらいいのかわからない。
あまりにも成長していない人間を目の当たりにして愕然とするばかりだ。
独立しよう。
なぜ、実家に戻ったりしたのだろう?
収入のあてがないなら何としてでも、何をしてもいいから働こう。
もっと大人にならなくては。
仁志がそんな思いを決したとき、南中道が現れた。
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